68.一難去って…
よろしくお願いします。
俺は冒険者ギルドの入り口に転移すると、サーチをかけた。マヤは、近くの店にいるらしい。
もう一度転移する。
「マヤ!」
マヤの後ろに転移したようだ。俺はそのまま後ろから抱き締めると、彼女の耳としっぽが、ぴんと天井を向く。
「く、クロ? どうしたの?」
「クロゥイン、いきなり現れるからビックリしてるじゃないか」
「カルティア?」
「久しぶりだね、元気だったかぃ?」
マヤを抱えたまま前を向けば、見知った顔が、にこやかに手をふっていた。
相変わらずのどこぞの王子かと見間違うキラキラしい恰好に、さわやかな笑顔を張り付けている。あますところなく、高価な宝石類で身を飾り立てているところも変わらない。
カルティア・リッチモンド。男装の麗人で、女好き。俺のパーティの一人で、もちろん耳には銀色のイヤーリングをしている。
今は王宮で一室をもらって宮廷女たちと遊んでいるはずだ。
こんな最も遠い場所にいる理由がわからない。
「拐われたってレミアルから連絡がきたから、何ごとかと思っただろ?!」
「それはレミアルに怒ってくれよ。僕はかわいいウサギちゃんとお茶してるだけさ」
「マヤは狼だってば」
「ごめん、ごめん。かわいいオオカミちゃんと、だったね」
俺は脱力して、マヤの横の空いている席に腰かけた。
「なんだってまた突然、戻ってきたんだ?」
「メルディアナから連絡もらったから、ちょっと確かめに来たんだけどさ」
「ならさっさと用事を済ませろ、こんなところで遊んでいないで」
「まあ、せっかく会えたんだから、一緒にご飯でもどうだぃ? クロゥインが好きな肉もあるよ」
「肉なら大抵のところにあるだろう」
「はは、まあそうだけど。オオカミちゃんはパンケーキを食べるってさ」
改めて見回してみれば、店内は喫茶店のようだった。お茶とお菓子、軽食のメニューが並ぶ。
「市長、ご注文は何になさいますか?」
近づいてきた店員の少女が、注文を聞きにきたので、俺はサンドイッチを頼んだ。
金を渡すと、厨房へと戻っていく。その際に、カルティアに見とれていたので、俺は胡乱な瞳を向けた。
「おまえ、さっそく何やったんだ?」
「なにも。ちょっと挨拶しただけだよ」
「挨拶しただけで、なんであんな顔になるんだよ?」
「さあ? それを僕に聞かれても困るよね」
全く困っていない表情で、笑う。
昔から、女にモテるダグラスとつるんでは、女の子たちにキャーキャー言われていた変り者だが、もうそろそろいい年なのでやめてみてはどうかと心の中で思う。決して本人には言わないが。
彼女は永遠の20歳だと豪語して憚らない。
俺の周りはなぜか、年齢詐称が多い気がする。
カルティアに言わせれば、筆頭は俺だそうだが、俺は詐称しているわけではない。勝手に周囲が年上に見ているだけだ。
「クロのおトモダチ?」
「ぶっ、お友達? あーまあ、そうだな」
不思議そうに首をかしげたマヤが聞いてきた。
友達という関係かと聞かれればビミョウなところではあるが、友達と言えなくもない。
どちらかといえば、悪友ではある。
「ひどいなあ、親友でもいいくらいだろう?」
「図々しい」
憮然とした表情で返せば、彼女は苦笑しただけだった。
「カルティア・リッチモンドだな?」
すっと店に入ってきた黒づくめの男たちが、テーブルを囲うように立った。ローブを纏っているところを見ると、魔法士だろうか。
威圧感のある態度で、俺たちを見下ろす。
「お前、今度は何やらかしたんだよ?」
「それこそ、僕に聞かれても困るよね。ええと、男に用はないんだけど? どうせならかわいいウサギちゃんを用意してくれないかな」
「貴様っ」
一瞬にして怒りの雰囲気になった男を俺は慌てて止める。
「ひとまず、店から出よう」
名前がわかれば強制的に転移魔法で店外に連れ出せるが、相手の名前がわからなければどうしようもない。種族ニンゲンの男でサーチをかければたくさんヒットしてしまう。
これが大量の魔物たちなら簡単なのだが。
「そうだね。ここのウサギちゃんたちに迷惑をかけるわけにはいかないからね」
「あの、カルティアさま。お食事は?」
「すぐに戻ってくるから、少し待っていてくれるかな」
「わかりました」
カルティアさま?!
先ほどの店員が慌てて駆け寄ってきて、カルティアを頬を染めて見つめる。
「お前、本当になにやったんだよ?」
ダグラスといい、こいつといい、社交性が高いやつらのタラシの能力が怖い。
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