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62.北部冒険者ギルド長会議

よろしくお願いします。


レッド・カーニバルから一ヶ月後、俺はフェーレン市の真南に位置するタラス市にいた。


タラス市の冒険者ギルドの最上階にある大会議室の円卓には四人の人間が着席しており、側近が横に控えていた。俺のとなりには武装したダグラスが直立している。


俺の両隣は欠席だ。

向かい側三つがレードル市、タラス市、ドルトミン市の冒険者ギルド長が並ぶ。


レードル市は小柄なじじいだ。70歳になりそうな高齢の男で細い目が特徴的だ。いつも見えているのか心配になる。職業は武僧兵でランクはもちろんSだ。

レードル市はフェーレン市の南西に位置する平野部だ。酪農と観光に力をいれており湖にあるダンジョンが有名だ。


タラス市は北部の中で一番広大な面積を誇る。40歳代のボブカットの女がギルド長であり、こちらは狸のようにふくよかな体をしている。デスマウスに似ているとダグラスに言ったら同意はされたが失礼だと怒られた。今回の会議の主催者でもある。

交易で栄えており、王都へと続く国道が走っているのを自慢にしている。


ドルトミン市は仲の良くない隣国ヴィアインドーバと国境を接しているため、冒険者ギルドの地位が低く、防衛に力を入れている市だ。依頼内容も魔物の討伐ではなく防衛の手伝いが多いため北部6市のなかでは一番発言権が低い。ギルド長は50歳代の屈強な髭を蓄えた男だが、俺は初めてみる顔だ。


「この度は北部冒険者ギルド長会議にお集まりいただきありがとうございます。今回議長を勤めさせていただきますタラス市のオミ・レンスと申します。今回は第22回目の開催になりまして、サンダルキア市とバグロード市の両冒険者ギルド長は欠席とのことですが3分の2の参加が認められましたので会議として成立させていただきます」


流暢にレンスが説明すれば、同意として拍手が起こる。それを確認して、彼女は手元の資料に目を落とした。


「ではまず最初の議題に移らせていただきます。始めはレードル市にあります青のダンジョンの魔物の出現数についてドモン・ベルクギルド長より報告があります」

「まずは近年の魔物の出現数とその種類について報告させていただく。図に示したようにーーー」


紹介された老人は資料を指し示しながら説明を始める。ここら辺はまだ安心だが、次第を見つめて俺は3番目と4番目の内容に注意を向ける。


3番目はタラス市から貴族や豪族の失踪事件について、4番目はドルトミン市から隣国ヴィアインドーバとの協定についてだ。

前者はうっすらと心当たりがあり、後者は余計な要請が来ないことを祈るばかりだ。


ちなみにうちから出した議題は、ギルドの登録者数の推移であり、ランクを上げてから他所へ移っている証明だ。これのお陰で、登録者数が伸びても大きな文句が出ないのだ。2番目の発言なので、ゆっくりできる。


ベルクの横に立つのは20歳代の女性だ。細かく資料を提示しては、発言場所を示している。そこまで補佐の手がかかるのであれば、そろそろ代替わりしてもいいのではないかと思うが、交代の話を聞かないので、食えないじいさんだ。


レードル市は湖にある『青のダンジョン』が有名で、深淵の大森林ほどではないが、それなりに強い魔物が出る。近年の出現傾向から見て極端に増えていることはないが、4年に1度の割合でスタンピードが起こっているようだ。来年あたりが起こりそうな年なので、討伐依頼を近隣に出したらお願いする旨の内容だった。


討伐依頼はいつものように各冒険者ギルド長あてでよいか、6市のみならず南部の近隣の市にも声をかけるかなどの質問があり、終了となる。


「では、次の議題に移らせていただきます。2番目はフェーレン市から冒険者の登録数と冒険者ランク、登録抹消時の推移についてクロゥイン・キップ(仮)ギルド長より報告があります」


次は俺の番だ。レンスの案内に従い、資料を読み上げていく。冒険者の登録数は近年、増えているが増えているのはランクF~Eであり、登録抹消時にはランクA~Sが多いことを示している。


「フェーレン市では、冒険者の育成に力を入れておられるようだが、これだけ伸ばして手放すというのは信じられんな」


ドルトミン市の冒険者ギルド長が、思わずという様子で口を開く。


「長く在籍してくれている冒険者だけで、うちは十分だからな。できれば、冒険者の質をあげて他市に貢献するほうがいい」


そのかわり、面倒な要請をフェーレン市に依頼しないように、できるだけ自分たちだけで解決してほしいとは思っている。


「フェーレン市の冒険者ギルドは有名な二つ名をお持ちの方も多い。もちろん、仮のギルド長ご自身が飛びぬけて有名であることは知っておられるだろうが」


ベルクの言葉に、レンスが頷く。

あまり友好的な関係が築けていない二人からの誉め言葉に、俺の警戒レベルがあがる。


「いや、俺は冒険者としては経歴は浅くてな。ここにいるのも不思議なくらいで…申し訳ない」


ドルトミン市のギルド長が頭を下げれば、横で秘書の青年が慌てている。率直な男だが、どちらかといえば愚直なのだろうか。厳めしい顔つきだが、話し出せば無骨な印象がある。

この場の空気が読めていない時点では大物と言えるかもしれない。


「過去のことだし、気にするな。それにベルクギルド長もレンスギルド長もどちらもご高名な上に長くギルド長の席に着かれている方々だ。後で話を聞けばいい」

「そうか、よろしく頼む」


ベルクのみならずレンスもランクSの冒険者だ。レンスは呪術師で二つ名を『人形使いのオミ』という。

呪符を埋め込んだ土人形を操るという呪術を得意とする女で、過去にはわりと凄惨なこともしている。


両者共に冒険者ギルド長の在位は20年を越える。古狐に古狸といったところか。

さっさと次代へ明け渡せとの意味も込めて返せば、ふふとレンスが笑う。


「私たちの功績など霞むほどの実績を上げてらっしゃるくせにご謙遜ばかりですわね。先日のレッド・カーニバルでは大活躍なさったとか」

「そうだ、そうだ。今回の議題にあがると思っていればすっかり流されたからな。詳細な報告はないのか。特にサンダルキア市とのこととかな」


どこにでもスパイは潜んでいるらしい。

まあ来るもの拒まずのフェーレン市では仕方ないのだが。それに知られて困る情報はきっちりと隠蔽しているので問題はない。


「レッド・カーニバルとは?」

「深淵の大森林で起こる魔物のスタンピードのことですよ。本来ならば一つの市だけでは討伐できないほどの災害ですが、それを彼は見事に防いでいるのです」

「ほう。今回、討伐できた魔物はどれほどか?」


ドルトミン市の冒険者ギルド長が興味深そうに瞳を輝かせる。


「詳細な数字を持ってきたか?」


ダグラスを振り返れば、彼は懐から書類を出した。予想はしていたので、一応の準備はある。


「モンキーフェイク267匹、ポイズンフロッグ2742匹、タラスク3体、ファースパイダー405匹、グローツラング1体、バッガーラビット289匹、バイコーン6体、ボーンドッグ298匹、シャドウ10匹以上、ビーブス200匹以上、ハティ6匹、ワーム515匹、バニップ2体、デスマウス136匹、火トカゲ257匹、スクォンク10匹以上、カゲロウ1415匹、ボムムカデ1549匹、ファッキンベアー713匹、確認できたもので上級種28、中級・下級種8796でした。素材などの報告も必要ですか?」

「なっ…一体、何人の冒険者で対応されたのだ? 2千人ほどか、いやそれでも少ないだろうが」

「いえ、487名です」


書類を読み上げたダグラスに、今度こそ、ドルトミン市のギルド長は絶句した。

レンスはあからさまに顔を顰めている。


「相変わらず異常だな。素材の数など聞いてたら日が暮れる。魔物の数の詳細不明については、また貴様が暴れたのだろう?」

「今回はあまり参加しなかったさ。おかげで例年より多めの素材が出回っただろう」


ベルクが好々爺の顔から、底意地の悪い顔になって鼻を鳴らした。


「スクォンクの素材など全く見なかったがな。どうせ塵に変えたんだろうが、馬鹿者」

「うるせぇ、そんなに欲しけりゃ自分で狩りに行け。好きなだけ許可証を発行してやる」


スクォンクは滅多にお目にかかれないが、その涙を採取できれば精神干渉の薬が作れる。また髪の毛も同様に精神干渉系の魔道具が作れたりもする。呪術師や神官などはもっとも欲しい素材になる。それを俺が雷で黒焦げにしてしまったため、仲間内からも批難された案件だ。


思い出したくもない。


「これほどに冒険者の力があれば、ヴィアインドーバなど恐るるに足らずではないか!」


ドルトミン市の冒険者ギルド長は立ち上がって、狂喜に笑った。

お読みいただきありがとうございました。

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