53.戦況報告
作業の都合上3話アップです。
話が飛んだと思われる方は2つ前からどうぞ。
よろしくお願いいたします。
「相談ってなんだ?」
ギルド長室に転移すると、サジェストとダグラスが待っていた。
定位置に腰を下ろして、立っている二人を見上げる。
執務机の上には深淵の大森林の地図が開かれており、四角い駒がいくつか散っている。いくつかは円柱、三角錐だ。四角の駒は多いが、円柱の数は4、三角錐は6。点在しているため、何を表しているのかわかる。
地図は上にA~Fまで振られており、縦に1~6まで番号が書かれている。
ちなみにC2区画を中心にB~D、1~3までは平地になっている。その地点が何を指すかは言わずもがな。しかも、まだ一部分でしかないのだから、俺は目を背けるしかない。
C6区画はフェーレン市の北門に位置する。
地図を眺めている俺の横でサジェストが召喚魔法を使った。
「『コール』オーキュペティ」
「お呼びですか、サジェストさま」
現れたのはハルピュイアだ。顔から胸までが人間の女性で、翼と下半身が鳥の姿を持つ生物だ。老婆のようなしわくちゃの顔をゆっくりと下げる。
ハルピュイアは中級にランクするが、サジェストは3羽ほど契約に成功している。
「報告を頼むよ」
「A3区画はタラスク、B4区画はグローツラング、C5区画はバイコーン、D5区画はシャドウ、人狼、ハティ、E4区画はバニップ、F3区画はスクォンクでした。上級種は以上ですが、その他の魔物も一定数いて戦闘が続いています」
タラスクは毒息を吐き散らす厄介な生物だ。全長は10メートルを超え、硬い甲羅を背負い、鋭い背鰭と猫の上半身に体躯は竜で6本の手足が生えている。
グローツラングは蛇の形をした精霊に近い存在だ。呪いで体を覆っており、瞳はダイヤモンドでできている。斃せれば一財産築けるが、出会うだけで災害と呪いをまき散らす。
バイコーンは闇色の馬に似た生物だ。角が二本生えているため二角獣でバイコーンと言われる。不純を司どり、狂暴、凶悪。角から繰り出される突きと、竜巻を起こせるほどの脚力が最大の武器だ。
ハティは魔狼の一種で、影のようにうつろう存在だ。シャドウと同様に魔法以外の攻撃は無効だが、厄介なのはやつらの牙や爪の攻撃は実体を持つという点だろう。こちらの打撃攻撃は効かないのに、あちらの物理攻撃は効いてしまう。
バニップは鳥の頭に蛇の体躯をした人食い怪物だ。大きさは13メートルほど。説明するまでもなく凶悪だな。
スクォンクは子供ほどの大きさの生物だ。体表はイボと痣に覆われ、常に泣いている。臆病な性格でほとんど人前に姿を現さないが、現れた場合は要注意だ。鳴き声を聞いていると精神的に狂ってくる。精神干渉が強く、そのまま自殺してしまう人間が多い。
「D5区画の数が異常だが、大丈夫なのか?」
ダグラスが呻くようにつぶやいた。その問いにオーキュペティが首をかしげる。
「そちらの被害はハティだけのようでしたが…」
「ああ、救難信号を受けとったから、俺が行って蹴散らしてきたんだった」
D5区画と聞いて、先刻の件を思い出した。
ダグラスが訝しげに俺をみやる。
「いつだよ?」
「13時45分」
俺は根に持つタイプだから、きっちりと記憶している。
「あいつら、罰金だからな」
「条例違反はアリッサちゃんに報告だろ。わかってる、伝えておくよ。まあ、時間はともかく救難信号は妥当だろ」
「一瞬で片付いたぞ。あいつら、もう少し鍛えないとだめだな」
「そりゃ、クロゥと同じレベルで考えたらダメだろ。D5区画は隊長がガルダ・バッフだっけ。腕のいい冒険者だから安心だが、今回のレッド・カーニバルはレベルが高すぎやしないか?」
「追加の戦力が必要か。被害状況はどうなってる?」
今回はベテランの上位ランク冒険者は二交代で、下位ランクの多い冒険者チームは三交代制になるように組んでいる。
「報告書では、大きな被害には至っていないが、交代時間が短すぎるらしい。戦闘開始から一日も経ってないのに一回りしたらしいぞ」
各隊には通信のための魔道具を持たせている。紙に書いた文字をそのまま報告できるので、リアルタイムで状況が分かるが、焦っているのか、時間がないのか報告書よりサジェストの召喚魔のほうが的確で内容がよく分かる。
空から監視しているのも大きいだろうが。
俺が出ていって一掃してもいいが、深淵の大森林が大平原になるのは目に見えている。
「『コール』デミトリアス」
「いかがされましたか、マイ・ロード」
銀食器を片手に現れたデミトリアスが、恭しく頭を下げた。片手に銀食器、片手に布巾を持っていても絵になる男だ。
確かかなり高位の悪魔の筈だが、今は市長館の屋敷の管理に熱心だ。悪魔も変われば変わるものだ。
そんなに家事が好きなら、自分の家でも持てばいいのに。
「報告はあるか?」
「目立たない程度に補助できているようですが。何か問題でもありましたか?」
「どうも今回はレベルが高いらしくてどこの隊も苦戦しているらしい。そちらに報告がないようなら、お前の配下はあまり危機に思っていないってことだな」
毎回、レッド・カーニバルにはデミトリアスの配下の悪魔を冒険者に紛れ込ませている。市長館で働いてくれているメイドや料理人のようだが腕は確かなので、ダグラスの報告にも大きな問題はないらしい。
「そうですね、まあ後で様子でも見てきましょう」
「前にも言ったが、この期間に称号プレートつけてる冒険者に怪我させたら俺が消滅させてやるからな」
「承りました、マイ・ロード」
デミトリアスを元いた場所に魔法で戻すと、サジェストもオーキュペティを還していた。
「彼女にも引き続き、監視してもらうよう伝えてあるんだが、どうも一部に不穏な動きがあるようだね」
「またどっかのスパイが紛れ込んだか? 素材回収したいやつらがわんさかいるから、相手にしてられないだろうって放置になった案件だろ」
「ああ、あったな。いつもこの時期には増えるんだが、それとは別件なのか?」
深淵の大森林を結界で覆うようになったため、魔物の素材を自由に狩りできなくなった周辺の都市から盛大な苦情が来たのだ。魔物が生息するのは、深淵の大森林だけではないのだが、魔物の質が上等なのは間違いない。
安心・安全に安定供給に努め、できるだけ安価に卸せるようにはしたのだが、利益を独占しているように見えるのだろう。利上げを狙っている連中は、管理されている状況にも我慢がならないらしい。定期的に手の者を送り込んできては魔物を狩っていっている。
そして、レッド・カーニバルの時期が一番増えるのだ。
「たぶん目的はそうなんだろうけど、結界を目指して動いてるようだ」
「はあ、まだそんな馬鹿がいたか。自分の首を絞めるだけだって気づいていないのか? よし、俺が行って見てこよう。ついでに、回復もしてくるか」
「了解、何かわかば連絡する」
ダグラスが自身の銀のイヤーリングを示す。
それを確認して、俺はひとまずA3区画に跳んだ。
お読みいただきありがとうございました。




