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51.天国と地獄

よろしくお願いします。


「んー、クロ…?」


ぎしりとベッドが軋んだ音をあげたからだろうか。

マヤが目を閉じたまま、小さく頭を動かした。

銀色の毛玉をふさりと撫でて、俺もその横で丸くなる。


外はまだまだ寒いけれど、ここはとても温かい。


すくーという気の抜ける寝息をたてながら、小さな背中が上下するのをぼんやりと眺める。


ペット生活って本当にいいな!


この愛らしさ!この癒しの空間!


アーベインにメールを送ったのだが、用件は簡潔にという短い返事しか返ってこなかった。

いやいや、多くの言葉でいとおしさを語りたくなるから言葉を尽くすんだろ。簡潔に送ってどうするんだ?


あいつのペット話にはあれほど付き合ってやったのに、薄情なやつだ。


実際にこの愛らしさを見たらやつもメロメロになるのは間違いない。いや、奪われるかもしれないから、見せるのはやめておこう。


俺はうつらうつらしながら、ぼんやりと考える。



そんなところまでは記憶にある。

目覚めたら、裸のマヤの腹に顔を埋めていた。可愛らしい小さなへその窪みに口付けている形になっていた。


その下に続く薄い茂みは見ないように努める。見たら、止められる自信がない。


すべらかな肌は、極上のシルクのように滑らかで天使の羽毛のように柔らかい。薄いから俺の腕で抱きついても余るほどだ。

目覚めは最高だけれど、こんなところを誰かに見つかれば犯罪者決定だ。


いくら成人していて合法だとしても、見た目が完全にアウトだ。幼女の腹に顔を押し付けているようにしか見えない。しかも俺は見かけ年齢は30歳を越えている。


抜群の精度の目覚まし時計でもここまで心臓に悪くないはずだ。


「ちょっと、マヤさん、起きてもらっていいですか?」

「んん、クロ、もう起きる時間?」


体を起こしたマヤにばさりと上掛け布団を被せる。


「うわっぷ」

「服はどうした? 狼サイズの着せてやっただろ」

「? マヤ、わかんない」


マヤが寝ぼけて人型に戻るのでなってもいいように寝袋タイプの服を着せてやったのだ。そういえば、俺が呼び出されて戻ってきたときは、すでに脱げていた。銀色の毛玉を撫でた覚えがある。


布団から顔を出して首をかしげるマヤの周囲を見渡せばベッドの下に丸まって落ちていた。狼の姿は毛に覆われているため暑がって無意識に蹴り落としたのだろう。


「また、別の手立てを考えるか…」


このペット生活は癒しと犯罪が背中合わせだ。一歩間違えれば、天国が地獄になる。


俺は脱力してベッドから這い出た。


「そーいや、人狼がお前を迎えに来てたな」

「マヤ、やだって言ったよ」

「気が向いたら里に顔出して欲しいってさ」

「それくらいなら、いいよ」

「マヤは里ではどんなことしてたんだ?」


マヤの耳としっぽがペタンと垂れる。しょんぼりしている証拠だ。


「神殿の中でゴロゴロしてた」


羨ましい。俺だってマヤを抱えてゴロゴロしたい。


「いい生活だな。なんで帰りたくないんだ?」

「クロ、いない…誰もマヤ呼ばない」


マヤの説明はよくわからないが、表情はひどく暗い。寂しいということだろうか。


「マヤがいたいところにいれば、いいさ」


銀色の頭をぐりぐりと撫でながら笑うと、マヤも安堵したようだった。

ほっと息をついて微笑む彼女をさらにぐりぐりと撫でまわす。

耳はぴんと尖って、しっぽはふりふりと振られていた。

マヤの感情は目に見えてわかりやすい。


「クロ、乱暴ー」

『クロゥイン、少し相談があるんだが、ギルド長室に来られるか?』


マヤの言葉と、サジェストの通信が重なる。


「はあ、仕事だ。行ってくる」

「ん、行ってらっしゃい、クロ」


名残惜しげにマヤをひとなですると、俺は空間転移した。

お読みいただきありがとうございました。

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