50.条例違反
よろしくお願いします。
「お前ら、ほんといい加減にしろよ?」
俺は不機嫌を隠しもせず、呼び出した張本人をねめつける。
「人間? おい、我らを―――」
「うるさい、ちょっと黙ってろ。俺はこいつらに話があるんだ」
「う、うむ」
話しかけてきた黒い毛色の大柄な人狼を一喝し、再度冒険者の一団に向き合う。
筆頭にいるのはガルダだ。
フェーレン市の冒険者ギルドに所属。D5区画の隊長に任命した男で、ランクA冒険者。
腰に下げているバトルアックスは二本で、二刀流だ。
茶色の髪はぼさぼさで、無精ひげも目立つ。同じく茶色の瞳には今は、弱り切った光が差している。
「いや、だがな、ギルマス―――」
「俺は仮だって言ってるだろ」
「いや、十年もやってて今更、仮だとか難しいだろうに」
「うるさいっ! とにかく、お前らには時計を支給しただろうが。お前ら、フェーレン市民を何年やってるんだ。時間を確認したか、今、何時だ?」
冒険者たちは慌てて懐から時計を出した。
懐中時計で、鉄製の丸い形をした時計だ。
もちろん、俺の『コピー』で大量生産してある。
ちなみに、研修所では時計の読み方も教えているので、ギルドに所属していれば時計の針の読み方は文字を覚えるのと同じく必須項目になっている。
「うわっ」
「あー」
「こりゃ、仕方ねぇか…」
年かさの冒険者たちは時計の針を見て、納得している。
というか、誰も時間を確認しなかったのか。
俺は呆れかえるばかりだ。
「今、何時だ?」
「13時45分です…」
ガルダが渋々口を開く。
「お前ら、全員、帰ったら罰金だからな」
「ええーギルマス、横暴!」
「俺ら、結構やばい状況でしたよね?!」
「死を覚悟したのにっ」
「怖くて腰抜けちゃったんですけど!!」
俺の罰金宣言に、口々に冒険者が言い返してくる。
お前ら十分に、元気じゃねぇか。
「なにが、やばい状況だ。こんだけ雁首揃えて、もっと気合入れろ!」
「シャドウに、ビーブス、その挙げ句、人狼ですよ?」
「『インタイア』『ライト』『ファイア』」
対象を指定して俺が放った生活魔法で閃光がほとばしり、ビーブスは空中で一瞬にして灰になった。ついでに森の木々にも火の粉が飛んだので、水をかけて沈火する。シャドウの気配はどこにもない。
「全域指定で生活魔法?!」
「相変わらず、ふざけた力ですね…」
座りこんでいる少女とガルダがつぶやくように、言葉を発した。
「ギルマスがやると、素材も灰になっちゃうからもったいないよな」
ガルダの横にいたキャピタルがぼやく。こちらもランクAの冒険者で、剣士だ。見つめる先には灰がたまって水で流された地面だ。どれだけ見つめても灰になった素材は元には戻らない。
「素材を無駄にしたくないなら、自分らで片付けろ」
ビーブスはその羽や毒針が高く売れる素材になる。
だから、レッド・カーニバルに俺は基本的には不参加だ。
救難信号を発したところにだけ、転移して手助すれば、あとはギルド長室で書類仕事に追われている。
「お、おい、もう、いいか?」
「ああ、悪い。何の用だったんだ?」
「銀の巫女を返してもらいたい」
「本人が帰りたくないっていうから、俺のところにいるぞ。おい、ガルダ。こいつら、えらく友好的だが、どこがやばい状況なんだよ」
「いや、さっきまでは殺る気満々って感じだったんですよっ。お前らもさっきまでの威勢はどこやったんだ」
ガルダが人狼に向かって吠えれば、慌てた人狼が犬歯をむき出して吠え返す。
「ば、馬鹿なことを言うな。この魔力を感じて逆らえるわけないだろう! 知能の低い魔物など本能で近寄らなかったほどではないか。巫女はあなたのもとにいるのだな?」
「そうだ。奪い返すっていうなら、返り討ちにするだけだが」
「いや、無事ならばいい。時々は里に顔を出すように伝えてくれないか」
「本人が頷けば、連れて行ってもいいが」
「それでいい。騒がせてすまなかった」
強面の人狼がペコペコ頭を下げながら、森の奥へと姿を消す。
「俺がいなくなれば、また魔物が集まってくるから体制整えとけよ」
『サーチ』で周囲を探れば、遠巻きに魔物の群れが見えた。
ガルダに餞別代りに伝えると、俺はまた転移魔法で寝室へと戻った。
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