49.レッド・カーニバルの始まり(ガルダ視点)
冒険者ガルダ視点です。
よろしくお願いします。
朝早くに出発した隊列は深淵の大森林の西側で、止まる。
総勢40名ほど。1班6~7名で組んでおり、6班編成だ。
先頭を進んでいた男が、地図を確認しつつ、後ろを振り返る。
西側の担当、地図を6マスで区切って正確にはD5区画を担当する。
隊長はガルダ・バッフ。40歳の経験豊富な冒険者だ。
職業は斧槍士で、レベル86。ランクAだが、今回のレッド・カーニバルではランクを上げられるのではないかと踏んでいる。
「野営地をここに定める。ひとまず、点呼。1~6班の班長報告しろ」
「1班、問題ありません」
「2班、OKです」
「3班、問題なし」
「4班、あー、ちょっと問題ありです」
「どうした?」
視線が4班の班長に集まって、背の低い男が、後ろを振り返る。
視線の先には、すっかり豆粒になった人影だ。
ローブをまとっているから、魔法職だろう。
「支給された疾風のブーツは?」
ランクFや体力の乏しい職業には、森の探索ができるように様々な物資が支給されている。
疾風のブーツもそのうちの1つで、体が軽くなり素早さがあがる。体力温存もできる優れものだ。広大な深淵の大森林で目的地まで行くためには必須のアイテムでもある。体力に自身があれば素早さの支援魔法をかけて行動しているのだが、そうでない者は支援物資に頼らざるを得ない。
などと当たり前のように言っているが普通は下位ランクの冒険者にここまで手厚くはしない。というかできない。
それを可能にしている冒険者ギルドがおかしいのだ。
疾風のブーツは本来ならば、ハウンドドッグという中級のモンスターを倒して作って貰える。一匹ならば大したことはないが、やつらは数十匹の群れで狩りをするため、職業次第ではランクSの冒険者パーティでも苦戦する。
また特殊素材の衣服などは服飾士という生産職が作る。買い取りも行ってくれるが、大量生産はできないので、基本的には個人の持ち物の範疇、数はしれている程度しかないはずだ。
それがフェーレン市の冒険者ギルドには200近い数があるのだから、ギルマスの底知れない力に震えるばかりだ。
噂では、ギルマスの生活魔法『コピー』で量産されているらしい。フェーレン七不思議の1つだが、単純に笑い飛ばせないところが彼の恐ろしいところだと思う。
「もちろん、支給されてますよ。単純に、やつの体力不足です」
「わかった。残りの点呼は?」
「5班は、一人魔力切れです」
「はあ、誰か怪我でもしたのか?」
聖者や神官は回復職だが、下位ランクだと擦り傷程度の回復でも魔力切れを起こす。
張り切って祭りに参加する初心者は移動だけで魔法を使ってしまうので、よく見られる光景ではある。
「途中で痺れ草を触ったやつらがいたみたいですね。聖者職が治療してくれたんですが、倒れました」
「支給物品に毒消しくらいあっただろうに。はぁ、次だ」
「6班は異常なしです」
「よし、1~3班で開始するぞ。残りは野営地作りだ。こちらは新人が少ないんだから、ちゃっちゃと片付けて他所の援助するくらいのつもりでかかれ」
「おう!!」
威勢のよい掛け声を聞いて、遅れている新人を誰か助けに行ってやれと声をかけようとしたところで、悲鳴が上がった。
「ぎゃああああ!」
一人遅れていた魔法士だ。黒い影のようなものに襲われている。
シャドウは上級魔物だ。暗い場所に潜み、背後から襲ってくる。取りつかれれば体力を奪われ、意識を失う。神官の祈祷で引き剥がせるが、本体へは魔法属性の攻撃しか効かない。
『ファイア・アロー』
気づいた誰かが火魔法をのっけた弓を放つ。
射導士でもいたのだろう。弓が使える射士と魔法士の職業レベルを50以上にすれば獲得できる職業で、矢に魔法を付与することができる。
弓を避け、シャドウが暗闇に消えた。
「戦闘態勢、魔法職は詠唱しとけ、シャドウ以外もいるだろうから攻撃職は気を引き閉めろ。補助職はサポートを頼む。誰か後方にも結界張っとけよ」
「私がやります」
ローブをまとった背の高い少女が手を挙げ、杖を構える。
ガルダは彼女の装備を見て、眉をしかめる。
ローブは分厚い白地の布だ。たぶんフェガロの衣だろう。最上級ローブ、ほとんど伝説級の防具の1つだ。寒冷地に住む翼を持つ狼フェンリルの別種だ。付与効果は魔力上昇、消費魔力50%カット、素早さアップ、詠唱省略効果。それ以外にもあったかもしれないが、魔法職ではないため詳しくは覚えていない。
対して杖は、竜木の杖だ。竜が巨木になったと言われる有り難い木の枝を削ったもので、こちらも最上級品だ。付与効果は押して知るべしである。
これほどの最上級品に囲まれた者など新人だ。
ここの冒険者ギルドは新人への手厚さにかけては世界一を誇る。
案の定、彼女の胸に輝くプレートはFの文字が刻まれている。
「何班だ?」
「3班です」
「わかった。ジェスパ、お前も結界に回ってくれ」
2班に所属している顔見知りの聖者職の青年に声をかけると彼は大きく頷いた。レッド・カーニバルへの参加には慣れているので、彼に任せておけば安心だ。
自分たちよりも格段に装備が恵まれているやつらを守るって言うのも複雑なんだよな。
ガルダは心の中で小さくぼやく。
自分の装備は深淵の大森林に入って、コツコツ魔物を倒して素材を集めた、いわば冒険の軌跡だ。誇らしくもあるのだが、借り物とはいえ一級品を見せつけられると羨ましくもなる。
早くレベルを上げてランクSになってもっといい防具や武器を買おう。
そう思わせることがギルドマスターの狙いなのかもしれないが。
フェーレン市の武器屋や防具屋は魔王のお膝元なだけあって、質がいい。掘り出し物も多数見つかる。その分、値段も高いのだが。
「隊長、左来ます!」
「前からも、来るぞ」
「上からビーブスです」
ビーブスは蜂を大きくした魔物だ。刺されると麻痺になって心臓が止まることもある。すばしっこいことで有名だ。
「落ち着け、班毎に連携とれよ。魔法職はシャドウ、それ以外の戦闘職はビーブスだ」
ガルダの指示に幾人か返事が返ってきたが、1つの悲鳴で場が凍りついた。
「きゃあああ!」
剣を構えた少女が右を見つめ、尻餅をついてガクガク震えている。
立てと怒鳴りたいところだが、気持ちはわからないでもない。
うっそりとした木々が作る暗闇の中、のそりと姿を現したのは二足歩行の魔獣ーーー人狼だ。
数は十数匹だろう。
魔物対策はしているが、魔獣対策はしていない。
人狼は武闘派の戦闘集団だ。対抗するには、幻術士と魔法士などの魔法職が多量に必要になる。
それも不意をつくなどしないと勝ち目はない。
向こうが臨戦態勢になっていると、とたん人は単なる被捕食者になる。
ぎらつく人狼の瞳は静かな闘志に燃えている。
あ、こりゃ駄目だ。
ガルダは素直に救難信号を発した。
お読みいただきありがとうございました。




