39.主のいない魔王城(グアラニー視点)
作業の都合上2話アップです。話が飛んだと思われる方は1つまえからどうぞ。
よろしくお願いいたします。
「大変だ、グアラニー」
全く大変ではなさそうな様子で、2階の広間に顔を出したタッガーを、グアラニーは振り返らずに出迎えた。
魔王城の2階はグアラニーの管轄だが、ここに川を造るという野望がこの度、ようやくデミトリアスから景観を損なわない範囲内ならと許可がとれたのだ。
あの陰険悪魔の気が変わらないうちにさっさと造ってしまいたい。いまいち、魔王城の景観ってなんだ?と思わなくもないが、造ってしまえばどうとでも言いくるめられるはずだ。
きっと、たぶん、どうにかすれば。
とにかく、時間が大事だ。
気もそぞろに、口を開く。
「どうした、お前はーーー、ああ、そこの岩は左に置かねば水が塞き止められてしまうぞ!」
「すみません!」
作業中のイプピアーラを叱りつつ、ふとタッガーの本日の任務を思い出す。
「タッガー、お前、今日は外当番ではなかったか?」
外当番とは、昨日突然現れた土トカゲたちが、城を壊さないように見張るための当番だ。
クロゥインからは土トカゲを傷をつけるなと言われ、デミトリアスからは城を傷つけるなと言われた結果、三将軍で話し合い、見張りをすることにしたのだが。
タッガーは将軍職に就いているくせに、引っ込み思案な性格のせいで、部下に命じもせず、一人で当番に当たっていたはずだ。
なぜそんな、将軍に向かない性格のタッガーをこんな役職に就けたのかデミトリアスの考えは分からないが、とにかく今外の見張りは誰もいない状態だ。
「持ち場を勝手に離れてはいかん! あやつら、言うことなど聞かんじゃろうが」
土トカゲはしっぽを切られたからか、ひどい興奮状態で暴れまわっていた。遠くに連れて行こうとするとますます暴れる始末だ。どうやら、誰かを待っているようだが、待ち合わせ場所に、何も魔王城を選ばなくてもいいだろうと、盛大に文句を言いたい。言えるならば。
とにかく、城に近づかないように見張るしかなかったのだが。
「だから、大変だと言ってる。勇者が来て土トカゲと戦いだした」
「何じゃと?!」
なぜ、今日に限って現れるのだ!
というか、なら、タッガーはなぜ勇者を放ってここにいるんだ!
引っ込み思案だから勇者と話せず慌てて逃げてきたのか、と自身に突っ込みながら、グアラニーは必死で短い足を動かした。
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外に慌てて出ると、鎧に身を包んだ長身の男が、大剣を振り回しているところだった。
城から出てきたグアラニーを認めると、黄色に近い黄金色の髪を揺らし、にこやかに笑いかけてきた。
「おー、グアラニーのとっつぁん。ありゃ、こんな真っ昼間に外に出て大丈夫なのか?」
心配そうに金と青のオッドアイの瞳を細める勇者の後ろには何匹かの土トカゲが地面に横倒しになっている。
悪夢だ、とグアラニーは呻く。
「ば、バカ者! なんてことをしてくれたんじゃ」
「何って退治だろ。しかし、こんなところに土トカゲがいるなんて初めてだな」
「これは魔王さまのご意向じゃ、これ以上土トカゲに傷をつけるな、と。とにかくすぐにやめろっ!」
「ええー、もう何匹か斬ったんだけど」
「見たらわかるわ! 元に戻せ、今すぐに!!」
怒鳴りつければ悪びれた様子もなく、困ったように土トカゲに視線を向ける。
「いや、だってもうしっぽとか切れてるだろ? 傷が増えたところで変わりないっていうか?」
「大有りじゃあっ!」
「俺、回復系の職業じゃないんだが…」
彼からはほとんど魔力を感じないので、そもそも魔法が使えないことは知っている。
「あああ、ワシはもうおしまいじゃ…」
「俺も一緒に謝ってやるから元気だせ!」
「足しにもならんわ!」
「ええ、それはちょっとひどくないか? でもようやく魔王に会えるなら、いいか」
「魔王さまには会えんぞ?」
勇者の目的を思い出してグアラニーは慌てて否定した。彼はクロゥインが魔王になって早々に、建設中の魔王城に現れた男だった。
以来、ずっと魔王に会うためだけに、深淵の大森林を越えてくるのだ。魔王不在を隠すため、数々の言い訳を並べているうちに、すっかりこの男とは既知の間柄になってしまった。
タッガーなど、勇者はグアラニーの友人だと思っているような節がある。
日に焼けた精悍な顔を歪ませて、彼はしかめ面を作る。
「またかよ。ホント、魔王なんているのか? 俺、とうとう子供が産まれちまったよ」
「赤子か、あれは美味い」
「食うなよ?! ちっこくて可愛いんだ。女の子なんだよ、嫁に似て美人さんなんだ。せっかく、とっつぁんに見せてやろうと思ったのに」
「いやいや、赤子を魔王城なんかに連れてきてはいかん! 教育上よくないじゃろ」
昔はバリバリ赤子を食べていたが、最近は人を食いたいと思うことも少ない。年をとって丸くなったからだろうか。さすがに向こうから攻撃されると闘争本能に火がついて、食欲も増すのだが。
「めでたい話なら、中できいてやる。ここは標高が高いから日差しが強くて干からびてしまうわい」
「やった! なぁ、あのジュース飲みたい。柑橘類の爽やかなやつ。まぁ、この前飲ませてくれた酒でもいいけど」
「誰が昼から酒なんぞ出すか。それこそ、魔王さまに叱られるわ」
「だから、会えるんなら叱られてもいいって」
「ワシは叱られたくはないからな!」
そんな恐ろしい状況など、命がいくつあっても足りない。
勇者と連れ立って城に戻りながら、グアラニーはこっそりと身震いする。
「しっかし、あの土トカゲの硬い体を、あれほど均一に切り落とすって、どうやるんだ? 魔法じゃあ威力が弱くて弾かれるし、並大抵の剣なら折れちまうしな」
「そうじゃろ、魔王さまはアレを魔法であっさりとやってのけたんじゃ。もちろん、剣でも細切れにできるほどの腕前らしいぞ」
「いやいや、今代魔王って化け物だろ…魔王だからいいのか? 次元が違いすぎて、想像がつかないな。こんな硬い体、傷つけるのが精いっぱいだったんだけど。俺、一応、勇者なのに」
自信なくすわーとぼやいている勇者に、グアラニーは気を良くする。
「よし、酒をだしてやろう。魔王さまのすばらしさを語ってきかせてやる」
「また、あのおとぎ話みたいな話か。まあ、酒のつまみにはちょうどいいかな」
「そうと決まればタッガーとパロニリアも呼んで…」
場所はタッガーの自室でいいか。
パロニリアの部屋は落ち着かないし、タッガーは一階を担当しているから、ここから近い。
苦笑している勇者の横で、グアラニーはうきうきと城に向かうのだった。
お読みいただきありがとうございました。




