↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/104

40.沈黙の魔王(アルモンド視点)

作業の都合上3話アップです。話が飛んだと思われる方は2つ前からどうぞ。

勇者アルモンド視点です。

よろしくお願いします。


アルモンド・レイドバックはガンダル王国の東の隣国ベルンヤカムイ神興国の勇者だ。


金と青のオッドアイを持って生まれてしまったため、神殿から勇者の称号を与えられてしまった。

神興国の建国史にはオッドアイの少年が神から託宣を受け、魔王を今の魔王城のある氷結の大峡谷に押しやり、魔王がいなくなった土地を清めてベルンヤカムイを興したと言われている。

おかげで、アルモンドは勇者の称号を与えられてしまったのだが。


物心つく頃には神殿で勇者となるべく鍛えられていたが、子供思いの両親は神殿に子供を預けることなく、家で大切に育ててくれた。神殿でボロボロにされても家に帰れば温かい食事とベッド、優しい両親の腕が出迎えてくれる。

ぐれなかったのはひとえに両親のおかげだ。


なので、あまり神殿にはいい感情を抱いていない。

ただ、魔法が使えないアルモンドは、魔王を斃すために仲間が必要だった。

当時の魔王はアンデッドで、死霊魔法を使う。

魔法耐性のない自分では瞬殺されてしまうことはわかっていた。


国から魔法が使える者を集めた神殿は、アルモンドとともに彼らも鍛えた。友人と呼ばれる存在を作ったのは神殿だったので、そこの部分は感謝していないこともない。

そうして剣士、神官、魔法士、聖者の4人で魔王討伐に向かわされたのは15歳になった時だ。

だが、途中の魔物を退治するので精一杯だった。深淵の大森林どころか、隣国のガンダル王国に入るのすら難しかった。


ようやく隣国に入り、フェーレン市に到達できた時には、すでに18歳になっていた。

そこで冒険者ギルドに登録したが、登録料の高さや依頼報酬の少なさに愕然とした。

剣士のレベルは50くらいで、仲間たちも皆、同様だった。

登録している冒険者のほとんどがランクSなのだと冒険者ギルドの受付の横にいたひょろりと背の高い剣士が親切に教えてくれた。

依頼内容は深淵の大森林の魔物の討伐がほとんどなので、魔物の素材を売りさばいて儲けを出せるほどの腕の立つ冒険者しか生き残れないのだという。


ダグラスと名乗った剣士は、その後もいろいろと面倒を見てくれた。来たばかりで金も登録料にとられたアルモンドたちのために、格安の借家を紹介してくれたり、体があいている日なら深淵の大森林まで一緒についてきてくれた。

同じ年くらいなのにすごいんだなと感心していると、まさかの年下だったのには驚いた。でも言われてみれば、成人前のあどけない様子がある。男になる前の少年特有の顔立ちに納得した。


さらに彼はフェーレン市の冒険者ギルドどころか大陸中に名の知れた冒険者だったようで、彼と一緒にいるだけで大勢から声をかけられるほどの人気だった。

冒険者という職業は、どちらかといえばアウトローなイメージだったが、フェーレン市では違うようだ。


素直に彼に告げると、ダグラスは困ったように笑った。

彼のパーティは特殊で、目立つことばかりしているから市民の好感度が高いのだそうだ。どれだけ聞いても、詳細を教えてはくれなかったが。


とにかく拠点を構えて深淵の大森林に挑む日々が始まった。

入り口あたりで瞬殺されそうになって、慌てて逃げ出したこともある。

ダグラスのパーティと共闘したこともあった。なるほど、彼が詳細を語りたがらない理由にも頷けた。知らない人に彼らの戦いぶりを話しても夢語りか作り話だと思われるだろうから。

あまりの力の差に愕然として、自分たちは魔王など本当に斃せるのかと悩んだほどだ。


まあ、親や知人を神殿から人質にとられているので逃げるわけにもいかない。自分たちでできる範囲で深淵の大森林を攻略した。


そうして20歳になったとき、ダグラスのパーティの一人が、魔王を単独で斃したと冒険者ギルドが騒然となったのだ。冒険者ギルド長の死とともに告げられた情報に、アルモンドたちは困った。

だが、すぐに新しい魔王がたったと言われて結局は、深淵の大森林を抜けて氷結の大峡谷を目指した。


一年かけてようやく深淵の大森林を抜けた。なぜか、魔物の数が激減していたが、それでもツライ旅路だった。


だが、ようやくたどり着いた氷結の大峡谷は、砂地になっていた。


氷結というくらいなのだから凍った地だと思っていた。

けれど氷はどこいったの?と聞きたくなるくらいに、何もなかった。

大峡谷ってどこかに行くものなのか。

それとも蜃気楼のように幻とか、見える人には見えるとか、なんか異空間への次元が開くとかあるのだろうか。


ぽかんと立っていると、遠くにいた巨人がどしんどしんと駆け寄ってきた。

戦闘か、と身構えるアルモンドたちに醜い顔をさらに歪めた凶悪な表情を近づけた。


「まだ、魔王城は建設中だ、立ち入っちゃなんねぇ」

「は?」

「これ見てわかるだろ? 今代魔王さまのお力でなんにもなくなっちまったからな。ようやく城の形が決まって建材集めもひと段落したとかで、一年経ってなんとか作り出せるところまでこぎつけたんだ。せっかく来てくれたとこわりぃが、危ないから一端、森まで戻ってくれ」

「ええと、ここは氷結の大峡谷と呼ばれた場所で合っているか?」

「そだ。大峡谷はあった。オラたちの仲間もそこで暮らしてたんだが、一瞬にして消し去られてなぁ。残った連中かき集められて、今、城作れって命じられてるとこなんだわ。もうすぐここに物資が届くから、あんたら人間はぺしゃんこになっちまう」


だから安全な場所まで下がれと押しやられる。

言われた通りに森の境界まで戻って、砂地の作業を眺めていると、空からどさどさっと石が落ちてきた。

空間魔法士でもいるのだろう。石が落ちてきた空はまた何事もなかったかのように青く澄んでいた。

大人が両手を広げてもまだ足りないほどの大きな真四角に切り取られた石を、巨人が運んでいく。きちんと置き場を決めているのか、規則的に石を積み上げていく。

時折、巨人同士が何かを話して、わははと笑っている。

青い空の下、乾いた風が吹き抜けた。

のどかな景色に、自分たちの場違いさが半端ない。


「氷結の大峡谷を消し去る今代魔王の力ってなんだよ…」

震えるように神官がつぶやいた。


巨人は確かに、ここが大峡谷だと認めた。魔王城もあったらしい。だが、何らかの力で消し飛ばした。その場にいただろう大量の同族を巻き込んで。それほどの力を有している魔王など聞いたこともない。

今の自分たちが、さらに成長したところで敵う相手とは少しも思えない。


「アタシさ、もう家に帰ろうかなって思うんだけど」


ぽつりと、魔法士がこぼした。


「そうだな。魔王城が出来上がるの時間かかりそうだなもんな。今の魔王の力もよくわからないし、情報を集めるだけでも時間がさらに必要そうだしな。ここにいてもすることないもんな」


自分に言い聞かせているかのような聖者の同意に、全員が頷く。

そこからは早かった。4人で一丸となって帰路に着く。


結局、神殿に報告がてら7年ぶりに顔を出せば、今の魔王を討伐するまでは戻ってくるなと追い出された。そんなものに付き合う義務も義理もないので、仲間たちとは解散し、アルモンドが定期的に魔王城の様子を探るということで決着をつけた。

報告しないのだから、別にアルモンドが魔王に関わる必要はないのだけれど、大峡谷を一瞬にして砂地に変えた男に会ってみたいと純粋に思ったから仕方がない。


こうして、魔王城の様子を探った。といってもしがない剣士職の自分は地道に歩いて深淵の大森林を抜けなければならない。空間魔法士ならば一瞬の距離だが、使えない力を欲しても仕方がない、と諦めていたが。

パーティ組んで1年かけて抜けた深淵の大森林を1日足らずで通り過ぎてしまったときのがっかり感は半端なかった。レベルがあがったのもあるが、なによりフェーレン市の冒険者ギルドの隣の貸出屋にあった疾風のブーツの役割が大きい。ものすごく速いのだ。体力の限界に挑めば魔物を振り切ってあっという間に抜けられる。

そんな希少性の高い高価なものを貸し出すのも不思議だが、値段も串焼き一本分とものすごく低価格だ。思わず買いたいと申し出たら、法外な料金を告げられた。

疾風のブーツなど神具の一つと言われているのだから、妥当な値段のはずだ。だが、貸し出しの料金の落差が激しくて思わず突っ込んでしまう。


店番の男は冒険者の生存率を上げるために貸し出しているのは冒険者ギルド長の善意だから、と言われた。安い値段でないと下位ランクの冒険者たちは手がでないため料金設定は格安になっているのだとか。しばらく魔物を斃して金を貯める日々が続きそうだと心に誓った瞬間でもある。


1年かけて出来あがった魔王城にも何度かチャレンジした。出入口付近の巨人に毎回、こてんぱにされて終わるのだが。

というか、魔王城の一階がいきなり巨人軍団ってどんだけダンジョンレベルを上げる気なんだ!


救いだったのは、見知った巨人がいて仲間うちに紹介してくれたから命まではとられなかったことだ。巨人は毎回顔を出すアルモンドにじゃれついているらしい。一番最初に知り合ったグレンデルが、そう朗らかに説明してくれた。


友好的な様子を不思議に思って尋ねれば、前魔王が反人間派を集めていたが、それを今の魔王が一掃してしまったので、穏やかな魔族が多くなってしまったとのこと。それは魔族的にはどうなのだろう。人間的にはありがたい話だが。


一階にいる巨人たちと大体顔なじみになった頃、魔王城の近くにある湖の水を入れ替えにきたグアラニーと知り合った。

湖は人工的に作ったので定期的に水を入れ替えないと悪臭の原因になるらしい。水棲人は水や川に対するこだわりが強いんだな、と知る。

しかし、巨大な水球を湖にぶつけて、物理的に入れ替えるのはどうかと思う。溢れた水が魔王城の一階に流れこんで巨人たちが怒ってるから!


魔王城の攻略が、魔族との知り合いを増やすというよくわからないクエストになってしまったが、一度も新しい魔王には会えなかった。世間では沈黙の魔王と呼ばれているとグアラニーに言えば、うまいことをいうものだと感心された。

いや、アルモンドが言い出しっぺではないのだが、誉められれば嬉しいものだ。


前魔王が斃され、もう10年が経つ。

3年前に幼馴染と結婚して子どもも産まれた。

フェーレン市の冒険者ギルドに登録したままだったので、抹消がてら結婚したことを報告したら祝い金を貰った。(仮)市長兼(仮)冒険者ギルド長が導入したシステムで、フェーレン市の移住者を増やしたいらしい。

住所はベルンヤカムイにあるので受け取りを拒否すれば、一緒にめでたいことを祝いたいギルド長の気持ちですから、受け入れてあげてくださいと言われた。

感謝するなら1つでも依頼を達成すればいいらしい。

なので登録抹消せずに、そのままになっている。


冒険者ギルドの空気も明るく、以前のようなギスギスした雰囲気もない。若い冒険者は目に光がある。それを眺めているだけで、なんだか嬉しくなるような気がする。


月日が経つのを感じるが、相変わらず魔王には会えていない。

叱られてもいいから、会いたいものだ。

お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。