32.アニマルセラピー
よろしくお願いします。
交渉が決まった時にダグラスからイヤーリングを使った声が届いた。
『クロゥ、1時の鐘が鳴ったぞ』
俺のお昼寝タイムの始まりだ。
飯は抜いても、昼寝は抜かない。
「サジ、時間が来たから俺は戻るぞ。お前らちょっと一緒に来い。起きたら、話をきいてやる」
「わかった」
俺は土トカゲを置き去りにして、カーバンクルの親子とサジェストだけを転移させた。
土トカゲがこれ以上暴れて魔王城を壊したとしても泣くのは俺じゃない。
デミトリアスがどうなるかは―――簡単に想像できるが。
あっさりと転移する。市長館の入り口だった。
「マイ・ロード。お帰りなさいませ」
「デミトリアス、この三人を適当にもてなしておけ。後で話があるから」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
「なっ、あの時の悪魔?!」
カーバンクルの親父が頓狂な声をあげたが、デミトリアスは全く意に介した様子がない。
三人の先頭に立って応接間へと案内している。
俺はそれを見送って、寝室へと転移した。
寝室に着くとそのまま寝台にダイブする。ほどよい硬さの布団が俺を受け止めた。
「ああ、やっぱりもう少し大きな枕が欲しいな」
思わず呟いたとき、入り口の扉の向こうから名前を呼ばれた。
「クロ?」
「マヤか。どうした、入ってこいよ」
許可を出すと、ゆっくりと扉が開かれた。
入ってきたのは、やはりマヤだった。一人のようだ。
今の彼女は薄い水色のワンピースを着ている。朝方に購入した服はいくら誰も袖を通さなかったとはいえ、使用用途の方向性がいかがわしいのでメイドに預けてすぐに着替えさせたのだ。洗濯されれば、心おきなく着られるだろう。
新しい服はアリッサに頼んで用意してもらった。
髪型は昨日と同じにサイドに小さなみつあみだ。
リボンは服の色に合わせた水色だ。あまりの可憐さに思わず息をのむ。
「みんながお昼寝前のクロに会っちゃいけない、言う」
よし、誰だ。あとで絞めてやる。
「そんなことはないさ。で、何の用だったんだ?」
「昨日の夜、ありがとう」
「あ、ああ」
俺は仏頂面をしているだろう。
言葉も素っ気なく聞こえるかもしれない。
だが、心の内では悶えていた。
恥ずかしそうにややうつむきながら、礼を述べるその姿!
俺の心はすっかり撃ち抜かれている。
やや上目遣いにこちらの様子を伺っているところもポイントが高い。止められるのも頷ける。
ドリームウォーカーなんて作らなくても十分にいい夢が見られそうだ。
「クロ? どうかした?」
「いや、大丈夫だ。俺は大丈夫!」
「マヤ、朝から探した、たくさんだよ。でもクロいない」
「そりゃすまなかった。マヤはずっと俺を探してたのか?」
尋ねると彼女は嬉しそうにはにかみながら、小さく首を横に振った。
「アリッサの手伝い、したよ。お掃除とか」
「偉いな。アリッサも喜んだだろう」
ペットを誇らしく思うのと同じ気持ちだろうか。
ほこほこする胸を押さえながら、俺はマヤの頭をワシャワシャなで回すのだった。
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