31.生産者ギルドの長の喜び(トーマス視点)
作業の都合上、2話アップです。
話が飛んだと感じる方は一つ前からどうぞ。
生産者ギルド長トーマス・ライブバアス視点です。
よろしくお願いします。
「市長経由で冒険者ギルドから仕事の依頼だ、集まってくれ」
生産者ギルドの建物は2階建てだが、地下部分を入れると実質5階建てにはなる。横に長く、ぐるりと円状に広がっているのが特徴だ。
各部門ごとに区画があるが、どの区画からも等しい距離、真ん中にあるのが大広間だ。
生産者ギルドの受付や掲示板があり、生産者ギルド長の部屋はこの大広間の2階にある。
その掲示板の前で2階から下りてきたギルド長トーマス・ライブバアスは声を張り上げる。
届いた依頼書は束になっている。
振り分けるのに一苦労しそうだ。
「本日12時過ぎに市内で土トカゲが暴れたらしい。建物と家屋の損壊や倒壊が起こっている。そこで、修復の依頼が来た。今から張り出すからできる限り引き受けて欲しい。市民生活に影響するから急ぎになるが、報酬は弾むそうだ」
おおお、とその場にいた者たちから歓声があがる。
「あの、被害はどれほどですか。怪我人はいるんですか?」
おずおずと声をかけてきた男が、心配げに表情を曇らせている。この場にいる者たちの多くは、市内に家族がいる連中だ。中にはこの生産者ギルドに住み着いている者もいるが。
市内の被害状況が心配なのだろう。
「死者はまだ確認できていないが、負傷者なら冒険者ギルドの方から治療班を編成して向かったそうだ。心配なら帰って確かめろ」
「はい、ありがとうございます」
男は冒険者ギルドからの治療班の話を聞いて安堵したようだった。
フェーレン市の冒険者ギルドに登録のある者のうち、派遣依頼で動ける者の力は安定している。
一昔前は市長も冒険者ギルドのギルド長も、金にがめついやつらだった。お陰で報酬金額は少なく、派遣される冒険者たちもやる気が低い。魔物狩りならば魔物を売った素材で報酬以上のお金が手に入るが、災害救助だと報酬のみだ。
また、情報も後手に回り、曖昧で不確かなものが多かった。生産者ギルドでも低い報酬に、詳細のない指示でどうしたらいいのかわからず苦情の嵐に頭の痛い思いをしたものだ。
それが、今や一時間前に起こった事件の対応をしているのだから、変われば変わるものだ。詳細を記した指示書の束にありがたい悲鳴をあげているのだから。
クロゥインは大した男だと心から思う。
冒険者では並ぶもののいないランクSSSで、前魔王も斃してしまった。前ギルド長に嵌められた報復は酷いものだと噂で聞いたが、彼のされたことを思えば仕方がないと言える。
その後、冒険者ギルド長のポストに彼は仮だといいながら就いてくれた。まだ若いことを理由に反対の声はもちろん上がったが、冒険者ギルドの副ギルド長の強い意向が反映された形になる。
自身の保護ばかりを優先していた男が随分強気になったものだと首を傾げたが、その後は影のようにひっそりとその地位についている。時折、見かける姿は別人のように見えるほどだ。
対してクロゥインはその数か月後には同じく仮だと言って市長になった。突然失踪した市長の代わりだったが、こちらは市民からの熱烈な要望からだ。
冒険者ギルド長の働きや手腕を買われたとも言える。
あれからもう10年になる。
フェーレン市は活気のある豊かな街になった。
(仮)市長兼(仮)冒険者ギルド長の発案で、制度を抜本から見直し、整備された。条例を発令し、冒険者ギルドや生産者ギルド、商人ギルドなどの各派閥ギルドの横のつながりも密度の高いものになっている。
制度や法令だけでなく、彼から提供された魔道具や魔法がそれを可能にしたのだ。
クロゥインは生産系の職業も持っているらしい。
魔道具を作れるのは魔道具師だ。
何かの魔法職と加工技師という生産系の職業をレベル50以上にすると得られる上級職の中でも異色の職業だ。作れる魔道具は持っている魔法職に依存する。
例えば、聖者と加工技師で魔道具師になれば、治癒や防御に特化した魔道具しか作れない。
例えば、魔法士と加工技師で魔道具師になれば、攻撃魔法に特化した魔道具しか作れない。
それが、常識なのだ。
だが、クロゥインは違う。
彼の作る魔道具は多岐に渡る。
治癒や防御の魔道具を作れば、攻撃魔法を詰め込んだ魔道具も作る。
一方で通信機能をもたせた魔道具も作れるのだ。
いったい、どれだけの職業を持っているのだ、と頭を抱えたくなる。
そんな人外の職業をもつ彼が各ギルドに提供したのは、文書を遠くへ送れる魔道具だ。これをつくるためには魔道具師と召喚士と写生師の職業が必要になる。もしかしたらそれ以外にも必要なのかもしれないが。想像もつかない。
写生師はコピーの生活魔法をもっと早く大量にできるように特化した生産系職業だ。いろんな素材に絵や字を書くことができる。しかも大量に、だ。地味な職業だが、重宝される。
便利になったという点だけ、受け入れることにしたのは間違いではないと思う。
むしろ、英断だと自分をほめたいくらいだ。
「ギルド長、住居部分の建物については新しい素材を使ってもいいかぃ?」
いかにも大工の棟梁といった格好の男が、一枚の依頼書を持ってトーマスに話しかけてくる。バークレー建材の親方だ。
つい先日に、新建材を発表して、フェーレン市のギルド会議を沸かせてくれた。
冒険者と生産者と商人ギルドの長が集まる三者ギルド会議だ。
「ああ、構わん。市長に返事しておくよ。どれくらいでできそうだ」
「一か月は時間をもらいたい。ただし、住み心地は保証するぜ」
「頼もしいな。おおい、ドクとバロッタも来てくれ。建材について説明したい」
トーマスは依頼書を眺めていた大工の棟梁たちに声をかけた。
住居を作ってくれるのは彼らになるはずだ。
「ギルド長、商店の建て替えの依頼には注文はないのか?」
「それは、各店舗主に聞いてくれ。現地でよく話し合うようにな」
「了解。おい、お前らいくぞ、大口の仕事だ!」
『へい!!』
数枚の紙を持って、土建業者が去っていく。
入れ替わるように、ドクとバロッタが近づいてくる。
「なんだい、ギルド長」
「住居の建材に新しいものを使いたい。このバークレー建材が開発したものなんだが…」
「ああ、話は聞いているよ。あたしもぜひ、使いたかったんだ。強度のほうはどうだい?」
「加工は難しいか?」
「いや、それほど難しくはない。気を付けてもらいたいのは―――」
三人が顔を突き合わせて打合せしている。
どの表情を見ても明るく、前を向いているのがトーマスにはとても嬉しい。
これをクロゥインが作ってくれたのだと思うと、感謝せずにはいられない。
トーマスは次々となくなっていく依頼文書を見つめながら、絶えずこぼれる笑みを抑えることに苦労するのだった。
お読みいただきありがとうございました。




