33.ペット枠な彼女
よろしくお願いいたします。
「バカだな、クロゥ。ペットなわけないだろう」
「いや、アーベインがよく言ってただろ」
俺の身近にペットを飼っていたのは彼ただ一人だ。
そして彼はことあるごとにペットの賢さを自慢していた。
餌を自分でとってきたとか、魔物を退治してくれたとか。
彼はそんなことを誇らしげに示してくる小さな存在にきゅんとするのだとよく語っていた。
アーベインは俺が冒険者をしていた時のパーティの一人だ。
俺たちより10歳以上年上のはずだが決して年齢を明かすことはなかった。
会話の中からやつの年齢を推測するのが俺たちの使命だった時もある。
彼の職業は神官で、博愛主義を気取っていた。
ペットに蛇やカエル、火トカゲを侍らせ悦に入っていた。
レミアルとはよくケンカしていた。ペットを捨てる捨てないの口ゲンカがいつの間にか俺とダグラスの勝負になっていることもあった。
二人とも非戦闘系の職業だから自分たちでは戦えないのだ。
しかし、なんであんなことになったんだったか?
「いやいや、アーベインか?! よりにもよって爬虫類大好きなあいつ? マヤちゃんが不憫すぎる…」
「なんでだ、こんなに褒めてるのに」
「お前のそれがペット愛じゃないからだろうが」
「あの、その話は今することでしょうか?」
おずおずと言葉をかけたのは、アリッサだ。
俺とダグラスは市長室にいる。
部屋にいるのはサジェストとカーバンクル親子、デミトリアス、アリッサと俺たち二人だ。
2時の鐘が鳴ってダグラスに市長室に呼び出された。転移した時に俺のペット自慢ならぬマヤ自慢が始まったのだ。
それへのダグラスの感想が冒頭のセリフだ。
「このメンツで楽しい話になりようがないしな」
「諦めてください、市長。では、被害の報告をさせていただきますね」
アリッサが書類を読み上げていく。
全壊、半壊、倒壊。負傷者数。
幸い死者は出なかったものの被害総額が鰻登りだ。
「続いてこっちは生産者ギルドに依頼した内容だ。修復には1ヶ月は見てほしいってさ。何でも新しい建材を試してみたいらしい」
「ああ、なんだっけ。耐久性と防寒性が上がるってあの素材だろ」
フェーレンは大陸の北の方に位置しているため年間を通じて寒い。外出には厚手のコートが必要になる。もしくは防寒の魔道具が重宝される。
アリッサに続いたダグラスの報告に俺は数日前に見た会議書類を思い出す。魔法士の土魔法と鍛治士が作り出した強化レンガだろう。
「住む場所がないなら、市内の宿屋とギルドの宿泊場所を使え。支払いは全額(仮)市長払いだ」
「そのようにはからいますね」
「ダグラスは生産者ギルドに問い合わせろ。冒険者ギルドの魔法士の力が必要になるなら仕事を依頼しろってな」
「それはもう聞いた。何人かは今、面接してるはずだ。あと、救護で10ほどのパーティが出動中だな」
「そうか。報酬ははずんでやれ。アリッサ、その分も(仮)市長払いで頼む」
「心得ております」
有能な部下がいて俺の仕事はほとんどない。
ありがたいことだ。
もう仕事辞めてもいいよね。
「サジェスト、そっちはどうなった?」
「ひとまずこれを渡しておくよ」
サジェストは手に持っていた袋を執務机の上に置いた。シルクの袋に包まれていたのは真っ赤な宝石だ。深い赤は紅に近く、濃いのに澄んでいる、不思議な色合いを秘めていた。
「今は一つだが、住みかに行けばあと、三つほどあるらしい」
「分かった。なら、これで手打ちにしよう。で、カーバンクルとは契約したままにするのか?」
「俺の魔力の2/3だからな…今、交渉の最中だ」
「お前なんぞに娘はやらんからな!」
カーバンクルの親父が叫んだ。それを娘が宥めている。
なんで嫁に貰うような会話になっているのだろう。
「こんな感じで揉めてるんだよ」
「俺としては用事は終わったからな、そっちは勝手にしろ。そうだ、これは返しておく」
俺はストレージをサジェストの前に開く。空間からイヤーリングが落ちてきた。
サジェストは受け取ってすぐに耳につける。
「ありがとう、クロゥイン。これ、壊れてたみたいだが、直ったのか?」
「大丈夫だ、気にするな! ところでデミトリアスはカーバンクルと面識があったのか?」
「申し訳ありません、マイ・ロード。大森林の結界に干渉していたので止めて、街へ続く門を教えました」
「お前、あの土トカゲ見たら止めた方がいいってわかってただろ?! おかげで大惨事じゃないか」
「あの時は時間がありませんでしたので。今ならばきちんと止めますよ」
何に忙しくしていたのかは知らないが、今ではもう遅いのだ。
時間は巻き戻せない。だが、物質に限定すれば起こってしまったことをなかったことにできる。時空魔法を使えばいい。だが、範囲が広すぎる場合は、発動しないことが多い。消費魔力が多い割に、発動条件が厳しいのが時空魔法の使いづらいところだ。
結果としては、作り直す方がずっと確実で楽になる。
「じゃあ、ひとまず、今回の騒動はこれで片付いたな。さて、ここからが本題になる。今日、闇市が開かれる予定らしい。そこで、ちょっとした余興をしようじゃないか」
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