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27.倒壊の理由

よろしくお願いします。


伯爵の屋敷前に転移した俺たちは門構えをみて息をのんだ。


一昔前の魔王の時代に流行ったとされるアンデッドの怪物が宝石の瞳を光らせて道行く人を見下ろしている。同じようなアンデッド系を飾ることで魔王を讃えるためだ。魔除けの意味も込めている。

門に絡むのは、骸骨だ。

その門の奥には鬱蒼と木が茂り、隙間から灰色の洋館が見える。


「焼き払っていいかな」

「待て待て、ここは切り刻もう」


腰に履いた剣の柄に手をかけ、ダグラスがにっこり微笑む。


「お二人とも落ち着いてください!」

「だってスッゴイ悪趣味な空気だろ。もう社会悪だと思うんだ」

「こういうやつらがいるから貴族の芸術センスが疑われるんだよ」


ダグラスは地方領主の三男だ。家格は伯爵なので、貴族に厳しい。家出同然で俺と冒険者をしているので、ほとんど扱いはいない者となっている。もともと家族仲が良くないため、本人は気にしていないが。


「もしかしたら、中は洗練されてるかも知れないじゃないですか」


俺は見えている洋館に向かって転移した。


どこかの通路に出たようだ。

深緑色の絨緞を敷き詰めた床。壁には宝石をちりばめた額に入った異形の姿を描いた作品が並んでいる。


「これはないですね。お二人ともやってしまってください」


あっさりとレミアルからの許可は出た。


「な、なんだお前たちは?」

「侵入者か?!」


通路を曲がった先から現れた男二人が俺たちに気がついて声をあげた。

だが、一瞬あれば片はつく。


ダグラスがざっと床を蹴り、男たちを一太刀で切り捨てる。


彼は剣士で、レベルは上限値の99だ。

ランクSの冒険者は二つ名があり、ダグラスは『疾風怒涛のダグラス』と呼ばれている。


ちなみに俺は『眠りのクロゥ』だ。

この二つ名は俺の中でなかったことになっている。

ダグラスは優しい感じがしていいんじゃないか、とか言ってくる。


優しい印象は求めてないんだよ!

じゃあ、代わってくれよ、と思う。


大体、二つ名って最初に誰が言い出すのか。


俺が好きなのを名乗っても定着しないが、誰かが言い出したのは馴染むのだから。

本当に最初に言い出したやつ、出てこい!


ダグラスはそのままくずおれた男たちを一瞥して、首を傾げた。


「結局、どうするんだ?」

「いったん外に出よう」


俺はもう一度転移した。


今度は庭らしきところに出た。

目の前にはそびえたつ灰色の建物が見える。

二階建てだが両端がせり出している形をしている。


屋敷の広さは伯爵らしい大きさだが、中身がすべてアレだと思うと我慢ならない。


「な、小僧?! さてはつけてきたな!」

「案内ご苦労、ハゲ」


一階の窓を開け放ち、身を乗り出さんばかりの勢いで怒鳴り散らすアベレスを労う。


「どういうことですかな、ギルド長。我々を売ったのですか?!」


アベレスの後ろにいた小太りの男が眉をひそめている。小物臭がするので、チュゲン伯爵の方だろう。


「レミアル、支援。ダグラスは向かってくるやつらを始末しろ」


『神前の舞い』

『トレマー』


レミアルが後方で舞い踊る前でダグラスは剣を構える。

俺はその間で魔法を唱えた。


だが、ちょっと待てレミアル!

神前の舞いって神の加護を得るための魔法で、強化魔法では?


地響き共に屋敷が大きく揺れる。

レミアルの魔法が威力を上げているので、まるで地面全体が波打っているようだ。


「なんでクロゥに威力増しの魔法をかけるんだよ?!」


大きな揺れの中で倒れないように立ちながら、ダグラスがたまらずに叫んでいる。


「支援を頼まれましたので」

「俺がせっかく微震の魔法を発動したのに、意味がないじゃないか」


トレマーは小さな揺れを起こす魔法だ。

魔法士が使える下級魔法でもある。


「何年パーティ組んでるんだよ、あいつの魔法の威力がヤバいってことくらい常識だろ。あいつが頼んだのは瓦礫から身を守るための防壁魔法だよ」


なんだその非常識な常識。

まあ俺の魔法の威力は目の前の光景を見れば明らかだが。


目の前の建物は完全に崩れている。だが、隣3軒くらいは崩壊したようだ。遠くに見える土煙と瓦礫の山を見ながら、ため息つく。


魔力結界は物理的に壊すことは不可能だ。なのでサジェストが瓦礫の下敷きにされている可能性は低いだろう。念のためにレミアルに保護を頼んだが彼女は全く関係ない魔法を使ってしまったので結界の強度を信じるしかない。


「小僧、こんなことをしてタダで済むと思うなよ」


瓦礫の中から立ち上がったアベレスが、憤怒も顕わにドスの聞いた声をだす。


「なんだ、生きてたのかハゲは悪運が強いな」

「ハゲじゃない、剃ってるって何回言えば分かるんだ?!」

「覚える気がないから難しいな。それより、屋敷の修復費用はお前に回しておくから」

「はあ?」


アベレスは周囲を見回して現状に気がついたようだ。


「おい、ふざけるな。貴様がやったことだろう」

「残念だな、俺はそれどころじゃないんだ、『レシジョン』」


俺は解除魔法を唱えると探知魔法をかける。

サジェストの居場所は一階の東端だった。

ここにいてくれて良かった。

いなかったら、壊した意味がなくなる。そもそも館を壊すつもりはなかったが、理由があると安心できる。


胸を撫で下ろしつつ、転移魔法であっさりと飛ぶ。


最後までアベレスが叫んでいたが、もちろん無視した。

お読みいただきありがとうございました。

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