28.ダグラスの基準(ダグラス視点)
「本当にお前らは忌々しいっ」
アベレスが顔を歪めて毒づいているが、ダグラスにしてみればクロゥインと同列に扱われるのはいかがなものかと思わなくもない。
昔から、それこそ子供の頃から一緒にいるが、彼は規格外で常識外れだ。
それを補うように、ダグラスは常識的であろうと努めてきた。
それはパーティが大きくなっても変わらない、ダグラスの信念でもある。
愛人の子供であるため正妻に疎まれ父と一緒には住めなかったが、領主の三男であるダグラスは一応、貴族としての教育は受けた。礼儀作法や剣や乗馬など、一通りの教育をほどこされている。自国の歴史や周辺国家との関係性についても勉強はした。
魔法についても教師がいたが、そちらのほうはあまり上達しなかったが。
職業の適正がなかったのだから、仕方がない。
だからこそ、アベレスの横で、屋敷が崩壊したことを怒っている貴族には腹が立つ。
「ここの領主が甘いからって、好き勝手が許されるとは思わないほうがいい。冒険者ならいくらでも替えが聞くと思ったか? お前らのくだらない私欲のために何人の冒険者の命が無駄に散った?」
「やったのはおまえたちだろう?!」
アベレスが怒鳴ったが、ダグラスは静かに首を横に振る。
「バカ言うな。深淵の大森林に入ったんだ、あそこにいる魔物や魔獣の力を知らないわけじゃないだろう。それなりの覚悟はあっただろうさ。だが、彼らは依頼されなければ動かなかった。死ななくていいはずだったんだ。死地へ送ったのはお前たちだ。忌々しいのはこちらのセリフだ」
「『聖者の行進』」
ダグラスが睨んでいる横で、レミアルが舞い始めた。同時に、飛んできた火球がダグラスたちを避けて庭の木にあたり激しく燃える。彼女の魔法のおかげだが、敵の攻撃の命中率を下げるのではなく、威力減退のほうがよいのでは?
相変わらずレミアルの使う支援は微妙だ。
「お、おまえたち、侵入者だ! さっさと始末しろっ」
瓦礫の山を前に侵入者もなにもあったものではないが、敷地に無断侵入しているというならばそうだろう。それよりも後ろで燃えている木は放置でいいのか。
ダグラスにはクロゥインのように魔法が使えないので、火を消すことはできないのだが。
チュゲン伯爵の前に並ぶように現れたのは、剣士や暗殺者だった。やや離れた場所には魔法士もいる。
ダグラスは静かに剣を構える。
アベレスはダグラスの力量を知っているため、顔色が悪い。アベレス自身はランクAの冒険者だ。若い時に頭角を現したが、ギルド長に就任してからはほとんどレベルを上げていない。
一方で、ダグラスはクロゥインに深淵の大森林で鍛えるように何か月も放り込まれた。体力も気力も尽きるほど戦わされた挙句に、彼の手によって全回復させられる。そして、また魔物の巣に放り込まれるのだ。あのスパルタのおかげで、もともと上限に近かったレベルは振り切った。
感覚が研ぎ澄まされ、自分の腕がどんどん上がる実感は、今でも忘れられない。
この場にいる程度の強さであれば、何人来ようとも敵ではない。
さらに、敵の行動を制限できるレミアルがいるのだから、最強だ。
「かかってくるなら、覚悟はしろよ。俺はクロゥほどやさしくはないからな」
全力を出すことをためらいはしない。
「ダグくんも十分に、人外ですからね」
ぼそりと横でつぶやいたレミアルの言葉はキレイに聞き流した。




