29.強さのレベル(デル視点)
カーバンクルの娘、デル視点です。
よろしくお願いします。
デルはカーバンクルの種族で、幻獣だ。
深淵の大森林に父と二人で住んでいた。幻獣は群れを形成しない。
勝手気ままに好きな寝床を選んで過ごしている。
幻獣の魔力に集まってくる魔物とせいぜい遊ぶくらいだ。彼らにとっては相性のよい魔力というのがあって、居心地がいいらしい。
そんなふうに自由に過ごしていたが、ある日召喚魔法で呼び出された。
小さな部屋で目を開けると、すぐに自分を呼び出した召喚主と引き離された。その後すぐに会うことができ、契約することもできたが。
サジェストはこれまで会った召喚士の中では格別の魔力量を誇る。
自分を呼び出しても、まだ魔力量は残っているのだから。
誇っていいはずなのに、サジェストは苦笑するばかりだ。
世の中、上には上がいるんだよ、と彼は言う。
デルが出会った召喚士の中で、一番なのだけれど彼は首を横にふるばかりだ。
だが、気弱な主に憤るデルの目の前に圧倒的な存在感を放つ漆黒の男が現れた。
魔族には一番上に立つものがいる。魔王と呼ばれる存在だ。
幻獣は魔族には分類されないため、直接関わることはないが、昔に一度だけ遠目で見たことがある。
その時も恐ろしさを感じたけれど、今の比ではない。
主を守らなければと思うのに、体が震えていうことをきかない。
焦るデルの横で、サジェストは彼に気安く声をかけている。
どうやら、主の知り合いで、仲間のようだ。
本当に彼が敵でなくてよかった。
幻獣は総じて強い魔力量を持っている。戦闘能力も高いためほとんど見つからないし手にいれられないのだ。
だが彼に比べれば私なんてちっぽけな存在、瞬殺されてしまう。
なるほどサジェストが上がいると言った理由がわかった。
わかったけれど、主よ。
彼のような存在と人間であるサジェストを比べるのは、比較対象が間違っていると思う。
彼はあっさりとデルの魔力封じの腕輪に気づくと壊してしまう。
素手で破壊してしまった。
魔法を使うと威力がありすぎて、デルの体ごと壊してしまう可能性があるとのこと。幻獣の体はそんなやわではないと言いたいが、彼にはできてしまうのだろう。
納得だ。
震え上がったのは言うまでもない。
だが、魔力封じの腕輪が外れたとたん、頭の中から父の声が響き渡った。
父がデルを呼ぶ声だ。
物凄く心配してくれたのだろう。
『お父さん、私は無事よ』
『おお、デル。よかった。元気そうだ、本当に無事だったんだな。今そちらに向かうつもりで森は抜けたんだが、どうも厄介なことに巻き込まれてしまって』
安堵の声とともに、語尾が小さく消えていく。
父に何があったのだろう。
『森を抜けたって、結界は? あれがある限り外へは行けないんじゃなかったの』
いつの間にか深淵の大森林を囲うように強大な結界が張られ、魔族や魔獣、魔物や幻獣の出入りはできなくなった。今代魔王が施した魔法らしく、頑丈で揺るぎがない。
魔王の力の底知れなさを感じたほどだ。
『それが、門を使えば通るのは自由らしいんだが、あの悪魔に騙されたか』
『悪魔?』
『ものすごく強い悪魔だ。魔王かと思ったほどだが。本人は違うと言っていたが、それも悪魔がついた嘘かもしれんしな』
『悪魔に騙されたって、どうしたの。大丈夫なの?』
『魔王さまの許可があるから門を通って人間の街に入っていいと言われたんだ』
「人間の街?!」
「デル、どうしたんだ?」
サジェストが、訝しげに自分の顔を覗き込んでいる。
「あ、すみません。父と連絡がついたんですが、どうやら深淵の森を抜けて人間の街に入ってしまったようで…」
「深淵の森を抜けた人間の街って、まさかフェーレン?」
「おい、サジ。どういうことだ?」
サジェストの横で、男の存在感が増す。
お、怒ってらっしゃる…?
『お父さん、今、人間の街にいるの? 大丈夫?』
『ああ、儂は無事だが。連れてきた土トカゲが暴れだしてな』
「街で父が連れてきた土トカゲが暴れているようです」
「はあ?!」
「うわ、ごめん。クロゥイン」
「ちょっとお前も来い。もちろん、手伝ってくれるんだろうな」
「わかってる」
サジェストがうなずいたのを見て、彼は魔法を唱えた。
『トランスフェレンス』
え、転移?!
しかも他者を連れての転移など、高等魔法だ。
なのに、まったく顔色を変えずに行使している。
瓦礫の山の前、燃え盛る庭の木々を後ろにして、人間の男女が同じく人間に囲まれて戦っていた。
その間に挟まれてデル達が現れた形になる。ものすごく熱いのだが、燃える木を放置してもいいのだろうか。
囲まれている二人はそれぞれ敵の攻撃をかわしながら、言い争いをしているようだ。
「誰が素早さをあげろっていったんだよ! 見ろ、思わず素通りして戻ってきただろう?」
「ダグくんが、あの間を通過したいっておっしゃったからですよ?」
「あの間を通りたいから、あいつらの動きを邪魔してくれって意味だ!」
漆黒の男が、おいと呆れたように声をかけた。
「なんで庭の木が燃えてるのか不思議だがお前らはやってないよな? これ以上、罪が増えるのは勘弁してくれよ。それより、緊急事態だから帰るぞ、ダグ。レミアルも、終わりだ」
舞い踊っていた女性が、踊りをぴたりと止めて、漆黒の男を見つめる。
そして、彼はまた転移の魔法を唱えた。
もうわけがわからない。
転移魔法の連発なんて聞いたことがない。
やはり、彼が魔王なのだろう。
魔力量も存在感も半端ない。
次に現れたのは、どこかの街の広場だった。
閑静な住宅街に見えたが、そこは今、阿鼻叫喚に包まれている。
あちこちに土トカゲが徘徊し、建物を壊している。
悲鳴に怒号。絶えず、周囲は慌ただしい。
あまりに目まぐるしい状況の変化に頭がついていかない。
「お前の父はカーバンクルか?」
「は、はい」
「よし。ダグ、アリッサに連絡して街の状況確認と、修復を手配してくれ」
「わかった。俺は市長館に行くから、レミアルは受付に戻って市長の名前で依頼を発行してきてくれないか」
「わかりました」
男女がそれぞれ駆け出したのを見届けると、残った男は唇の端を持ち上げて笑んだ。
「『サーチ』カーバンクル、土トカゲ。よし、これだな。俺の街で暴れやがって。きっちりと落とし前つけてやる」
デルが竦みあがったのは当然と言えるだろう。
お読みいただきありがとうございました。




