21.バグロード市のハゲ
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「な、なんだ、お前たち―――、ああ、小僧?!」
「久しぶりだな、ハゲ」
軽く手をあげて挨拶すると、目の前の男は本気で怒鳴ってくる。
「俺はハゲじゃない、剃ってるだけだ!」
男はアベレス・グリード。バグロード市冒険者ギルド長。スキンヘッドの髭面だ。
髭を髪に移植すればいいのに、といつも思う。
時々は本人にアドバイスしている。
顔を真っ赤にして怒鳴ってくるところまでがワンセットだ。
俺たちはバグロード市の冒険者ギルド長室に転移した。
アベレスは執務机に向かって書類を眺めていたところだったようだ。
立ち上がりざま怒鳴りつけてくる。50代を過ぎているが、まだまだ威勢がいい。
早くくたばればいいのに。
「面会予約もなしに突然現れおって、何用だ?」
「俺たちが来る要件なんざお見通しだろうに」
「どういうことだ?」
いぶかしむアベレスの前に魔法を発動してやる。
『コール』
バラバラと空間から現れたのは朝にダグラスから見せられたプレートだ。これらはストレージで空間にしまっていただけだから、ストレージで出せばいいだけなのだが、わざわざ上級魔法をみせてやった。
「なんだ、プレート?! 非常識なやつだな。普通に渡せば良かろうに」
机の上に山となった称号プレートを眺め、アベレスが毒づく。そのとおりだが、それだと面白くないだろう。相手を追い詰めるときは、自分の優位性を示すに限る。
鼻白んだアベレスはプレートを手に取り、そのまま絶句した。緑色の瞳が、見馴れた文字を映したのだろう。
「ギルド長の集会日を知らせなかったり面倒なクエスト押し付けてきたり小さな嫌がらせなら見逃してやったが、今回はないんだよ」
「ま、待て。黙って深淵の大森林に所属の冒険者を大人数送り込んだのは悪かったが、魔族を攫っただけだ。なぜお前がここまで関わる?」
「それをお前に説明するべきことか?」
(仮)魔王になったことは大々的に公表していない。知っているのは俺の周囲にいる限られた者だけだ。
俺はすぐに魔王を譲るつもりで、一時的に引き受けただけだ。
まさか10年も仮の状態が続くとは予想外だ。
結果として、現魔王の情報はほとんど世間に出回っていないのだった。
そのため、俺の肩書きは(仮)フェーレン冒険者ギルド長兼(仮)フェーレン市長だと、世間的には思われている。魔族を攫っただけで、俺が直々にでてくるとはアベレスも思わなかったに違いない。
だが、そんな(仮)魔王事情をこのハゲに説明するのは面倒だ。必要性も感じない。
それに魔王でなくても、この案件には口出す権利が俺にはある。
「フェーレン市の条例をしらんわけではないだろう? 魔族や魔獣の違法な密輸は条例で禁止されている。せめて、きちんとした届け出を出しておけばよかったのにな」
「それはちゃんと届けでたはずだ、きちんと調べろ」
「銀狼とは書いてなかったぞ。隠ぺい魔法までかけてたくせに、何が届け出ただ」
ぐぬぬと呻いているアベレスを見ると、心当たりはあるのだろう。だが、俺がここまで出張ってくるとは想像していなかったという顔をしている。
「というわけで、しばらく出入りさせてもらう。その間に身の振り方を考えておくんだな。うちの前ギルド長の二の舞にはなりたくないだろう?」
「クロゥくん、脅しすぎですよ」
後ろで成り行きを眺めていたレミアルが間延びした声で咎める。
「うちの市内を勝手に通過して森に行って騒ぎを起こしたやつだぞ。妥当だろ?」
「そうだな。むしろ、命があるだけマシだ」
「ダグくんもクロゥくんも大人げないですよ。冒険者ギルドはクエストを依頼されたら受けて発注するのがお仕事なんですから。一方的に彼だけを責めるのは間違いですよね」
レミアルが絶望的な顔をしたアベレスに同意を求めている。
彼女は無自覚な脅し屋だ。
本人に脅迫の意図はまったくないが、聞くやつが聞けば立派に震え上がる。目の前のアベレスのように。
「…依頼者は教えられんぞ」
「そんな簡単に口をわるとは思っていないさ」
俺が肩を竦めれば、レミアルが腕を振ってパンと一つ手を叩く。何度か同じような動きをしているが、アベレスはそれどころではないようだ。
「何をする気だ?」
「少し散策させてもらうから、その間にどうにかするんだな」
依頼者が貴族か金持ちかくらいの予想はついているが、どこの誰かまではわからない。ならば、このハゲを追い込み自滅してもらうしかない。
呪いがこもったような瞳を向けてくるアベレスに、ところで、と前置きする。
「ここ最近、悪魔と接触したか?」
「はあ? 悪魔なんぞ高位の魔族など簡単に会うわけがないだろう」
一般的には悪魔は特定の人の前にしか姿を現さない。市長館にゴロゴロいるのは、デミトリアスの配下だからだ。
なのでアベレスの反応はごくまっとうなのだが、この件に悪魔が関わっているのは間違いない。彼は何も知らないということだろう。
「では、サジェスト・ブラインドネスの居場所を知っているか?」
「次から次へとなんだ。お前の忌々しい仲間なんぞ知るか。この前、市内を歩いていたようだが、すぐにいなくなったはずだ」
アベレスは俺の怖さをよくわかっている。
俺が仲間を傷つけられれば報復にくることも知っているので、彼の言葉に嘘はないだろう。
用は済んだと軽く手を振って、また転移するのだった。
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