15.災害と災禍
「カッ・・ガフッ!!?」
ベシャッ!
回復薬によって塞がった傷口から漏れ出ていた血液の塊を
吐き出し、少し首をかしげながらこちらを見ていた師匠に
目を向けると、にやりと口角を上げ、後ろの敵へきびつを返した。
「気道も回復したようじゃな、では、始めるかの」
ヒュン
「まずもって、見えない敵と相対した時には逃げる事じゃ!」
「その前に死にかけたんですが!?」
いや戦おうともしたけど、あくまで対処方法の確認後に
逃げようとしてたはずだ。多分、ノワールはめっちゃ殺しに行ってたけど。
「当然、逃げるとは言っても何処に行けば良いのかも分からん。
じゃから、まず壁のある場所に行くのが優先となる。
何故か分かるかの?・・小狡いのぅ毛玉め」
バチッ!
「攻撃の出所、ですよね?」
「じゃ。雪崩の所為で積もった雪から逃れようと風魔法を使ったのは
発想に富んでおる。しかし、崖の上に敢えて残り続けたのは
失策としか呼べぬ」
ぐうの音も出ない正論である。斜面の上、しかも見晴らしの良い
崖に立っているのだから、周囲から見れば攻撃してくれと
言っているのと同じ事だ。しかも、今回の敵はあまりに小さく、
毛皮も白い。ヴァイスが居るからと完全に油断していた証拠だ。
「ま、まあ、フクロウさんに上を見張らせていたからこそとも
言えるがの。もう一つ、何故見えない攻撃に土魔法を使わなんだ?」
「へ?」
「なんじゃ、知らんのか。〈砂礫〉」
ヒュ~・・・ガリガリガリ!!
複数の風の塊に衝突した砂塵がそれぞれ別々の軌道を経て
こすれ合った砂がジャリジャリと不快な音を出す。
「一度目の攻撃で環境を利用した風魔法と分かった筈じゃ、
ならば、砂を振りまいて風の流れを見えるようにしてやればよい。
風に規則性の無い攻撃=敵が多数居る事に気付けた筈じゃ。
戦い様も変わっていたじゃろう。次から使うと良い。便利じゃし!」
「土魔法にそんな使い道有るんすね・・・」
目つぶし位しか使えないと思ってました。反省。
「・・・最後に、何故ヴァイスに救援を求めるよう言わなかった?」
「それは・・・」
「自惚れか、自負か、どっちか知らんが無理と思えば助けを求めればよい。
それとも、そんなに信用無いのかの、わし」
そんな事は無い。が、試練の一環としてイレギュラーモンスターを
数体配置した可能性を考えてしまった。考えすぎが今回の失敗を
招いた。
「いえ、判断ミスです。けど、ヴァイを向かわせた場合、高確率で
打ち落とされてました。この数に狙われたら流石に無理です」
「ふむ、試す事には意味があったと思うがのう。仲間意識も大事じゃが、
捨ての判断の方を優先すると良いかもしれんの。失う事を
後ろ向きに捉え過ぎてはいかん。無事なのが何よりではあるがの」
む、痛い所を突かれた。ここまでか。普通にミスを
誤魔化そうと子供っぽい事をしてしまった。反省。
「少なくとも手強いモンスターは一種類と言われていた時点で
ヴァイを向かわせるか判断すべきでした。申し訳ありません」
「・・やはり、師には向いておらなんだ。謝らせたい訳では無いのじゃ、
熱くなり易くてすまんのう。・・終わらせるかの〈生命の循環〉」
ト───トト─トトトドドドドオオオオオオオ!!!
「なん・・・つう!?」
「ジュ───!?」
グチュッ!シュウウウウウウウ────!
「なんとも醜い光景じゃが、この魔法を作り出した者はこの光景を平和への
礎と呼んでおった。何とも皮肉な平和とは思わんか。敵対する全てを
貫き、亡骸に恐怖を刻み付けるなど」
数百を超える屍が、まるで数日間日干しにされた様に枯れ果て、
吸収されたエネルギーが赤い花となって雪山に朱が広がって行く。
この魔法を作った人は、この光景を平和と呼んだのか。
・・なんとも独特の考え方だ。
「景観は良くなった。しかし、雪山には不釣り合いか〈絶対零度〉
〈破砕〉〈白雪〉」
ポッ・・パサァ
「さて───」
「ッ──」
破壊の痕跡一つすら残さず、雪山はその姿を取り戻し、
ただそこに在る存在に目が留まる。しかし──
「頑張ったのう弟子2号、もう少し、頑張るんじゃぞ!」
「・・・はい!」
少し息を吐いてこちらを見る師匠は、いつもの笑顔で弟子へ笑いかけた。
・・・・
「っっっざけんなああああああああああ!!!!!」
あの後、目的の物の発見し、帰ろうとした途端、トカゲが
再度現れた。それだけならさっきと同じなんだが、明らかに100体を
超えているのは、違う点だろう。
「無理無理、戦ってられるか馬鹿野郎<風の鎌>!」
逃走しながら数を削るが普通に減ってる気がしない。また雪崩が
起こりかねない状況に、ヴァイスを師匠の元へ向かわせようとしていると───
ピタッ・・・
ある場所で蜥蜴が一斉に停止した。
「止まった?どうなって・・」
振り向くのは一瞬、脅威が有るからこそ近づいて来れないと判断し、
周囲を見るが何もない・・・まさか。
キュルルルルゥゥゥ♪
「!?・・・舐めっ・・・るな〈砂礫〉!!」
ブオン・・・
風切音によって後ろの雪が吹き飛ぶが、そんな事はどうでも良い。
師匠が全滅させたはずなのに何故?そっちもどうでも良い。
今やる事は一つだ。
(対象は2体、1体はヴィルとヴァイにやらせる)
「グルルァァァァアア!!」
「ヴァイ、手伝ってやれ。追加が見えたら即師匠のとこに飛べ!」
八つ当たりになるが、勘弁しろよネズミくん!
「倒せるだろ相棒?」
「わふ」
《2体目の相棒モンスターを指定しました。個体名〈ヴィル〉の共有経験値が
上昇しました。〈スキル共有〉の対象になりました》
「上等」
ダッ!
「耐久力は皆無に近い、速攻近づけ〈ステップ〉!」
ヒュン
「潰れろ」
「ジュゥ〈雷の網〉」
「なっ!??」
攻撃に移ったタイミングドンピシャで放たれた魔法に、
一瞬体が固まる。そして
「〈暴風玉〉」
「ア”ア”ア”ア”!!」
爆発に見紛う威力の暴風がレンの体を吹き飛ば──
「ジュ?!」
「専用スキル〈仲間の助け〉ノワールの〈タウンティング〉だこら。
諦めろネズ公〈混合魔法炎風爆陣〉」
[スキル:タウンティング 消費SP3 効果:対象からのヘイト増加、強靭増加]
迷うことなく、今の最大火力を持った一撃を放つ。オーバーキル
だろうが構わない。代わりに数十秒間腕が使えなくなる諸刃の剣だが、
なんつーか、ノワールやられてムカついた。
ズガアアアアアァン・・・
「───」
ドサ・・
片腕と引き換えに灰すら残さずネズミを消滅させた男が倒れ、
同時にフクロウの声が戦闘終了を告げる。
「大打撃だ・・・畜生め・・。勝ったぞ」
ザッ・・
「わふー」
「無傷かよ、強過ぎんなお前等〈治癒〉ヴァイは師匠呼びに行ったか」
ノワールの時もそうだが、あまりに狩る事に関してうちの面子は
強過ぎ。自信失っちまうぞこのやろー。
《プレイヤー〈レン・コールマン〉の〈■■■〉に反応し、〈災■の鎧〉出現します》
「何言って・・ッ───」
・・・・・ドクン!!
システムメッセージが流れた瞬間、ソレは当然の様に
其処に立っていた。
(何だコレ、一体───)
見つめた瞬間声がした。あまりにも悲痛な、悲鳴に似た
男の、女の、少女の、少年の声が。
《アナタは誰?》
「誰かの○○になりたい誰か。君は?」
意志ではなく体が、口が勝手に言葉を紡ぐ。
《ワタシ達は───》
「コー!!」
ガバッッ──!!
「し、師匠!??」
一瞬にも永遠にも思えたその時は、師によって遮られた。
これまでにない程焦った様子の師匠は、降り立った瞬間には
こちらに手を向けていた。何の為───
「先に帰っておれ、お主では耐えられぬ〈瞬間移動〉」
「なん・・・」
ほんの一瞬、転送される瞬間にだが、その甲冑の正体を垣間見る。
精神が侵食される、心が呑み込まれる感触が。
「ふぅ、また持ち出しおったか、愚か者め。それにしても何故・・・
いや、まさかじゃな。・・やるかの~、面倒臭いー!」
この時より、マップ攻略組が来たばかりの場所を含め、
数十か所の地点でイレギュラーが発生する事になるが、
それはまた別のお話。
・・・・
強制ログアウト、NPCにもそんな権限が有るのか。さて、何か
分からないが不安な事が有ったのだろう。
だから、こう言う時は早めに寝るのが良いと経験則で知っている。
「早いけど、寝るかー。アリス、解析内容をカゲんとこ送っといてくれ」
《まだ解析終わって無いんだけど?》
「・・・マ?」
《大真面目、プロテクトもあっちに任せてるのね。気持ち悪い位
良質のセキュリティーよ》
「アリスでダメならうちじゃあもう無理だぞ」
《1月ちょうだい。それかもう一人居れば2日で》
うーん、アリス2人は無理だなぁ・・。御剣さんに
延長頼まないとか。ま、良いや。
「1月で構わない。今のところ面倒臭いエラーは吐いてないんだろ?」
《うーん、表面だけはそう。かな》
「ほうほう、その答えは?」
「ちょっとテクスチャの一つ一つが粗いのよね、
まるで急造で一から作り直したみたいな》
それはそれは、らしくない仕事してんなあいつんとこの部下。
「ふーん、それも定期報告に入れとく、ま、気長にやれ。最悪
終わらないなら試験導入中のアレを貸し出してもらう」
《こんなことなら、マイティー達を手元に残しておけば良かったのにー!》
「無理言うなよ、一介のワーカーがお前含めて2体保持とか警察沙汰ですよって」
カシュッ
《お酒、飲むんだ》
「残念ノンアル、半年前に廃版になってるから出てこなかったか。
よく眠れるから何日かおきに飲んでる」
《へー、・・ねえ、ちなみに私とげー「えーむりー」・・ったく言って損した》
お前と俺はそうじゃないだろ。と言うか、楽しいって感情を
入れてないのに何故悔しいばかりのゲームをやろうとするのか。
わからん・・。
「余計な事にリソースを使い過ぎるなよ。自由領域で
何してようが構わないが、契約は絶対だ。だろ?」
変に気を遣うよりこっちのがアリス好みだろ。多分。
《なんだってそう遊びが無いのかしらね》
「暇なら一番なんだけどなー」
《・・・分かったわよ、じゃ、解析が終わるまで出て来ないから、期待して
待ってなさいね!!》
「うい、待ってるから早めにな~」
さてと、
「・・ゲーム開始からここ、この手の震えは何で起こるんだろうなぁ?」
いつもの日常の、ちょっと異常な感覚に違和感に戸惑いながら、
男はそれを打ち消す様に炭酸飲料の入ったグラスを傾けた。
次
と言う事で、師匠強い(当たり前)でした。あの後鎧の封印の為に
1週間近く山籠もりして色々やってました。
甲冑さんは、制御できなくて放牧されてた系の装備です
(性能はまだまだ出せませんけどね~)




