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労災が認められそうです

朝。


まだ陽も昇り切らない頃。


ガコン。ガコン。


乾いた音が村中へ響く。


「アリス、今日も早ぇなぁ。」


「薪割り終わったら朝ご飯作りますね〜!」


斧を担いだまま笑うアリスに、鍛冶場の職人たちが苦笑する。


「働き過ぎだろ。」


「身体壊すぞ。」


「大丈夫です!身体だけは丈夫なんで!」


誰も反論できなかった。


朝食を終えると洗濯、掃除、畑仕事、昼食の準備。

午後は職人たちの子供へ読み書きを教え。

その後は鬼ごっこに付き合わされ、夕方には子供たちと一緒に洗濯物を畳む。

夜は鍛冶場のおっちゃんたちと酒盛り。


「……お前。」


ニックが呆れ顔になる。


「もう完全に村の住人じゃねぇか。」


「居心地良いですから!」


満面の笑みだった。


ある日の午後。


アリスはヒルデの手伝いで薬草を干していた。


「それ、裏返して。」


「はい。」


隣ではナンシーが薬草を束ねていると、ふと手を止めた。


「ねぇ、アリス。」


「はい?」


「どうして王宮なんかで侍女をしてたの?」


アリスは笑顔で答えた。


「給料良かったんですよ。一か月金貨十枚です。」


「十枚!?」


ナンシーが目を丸くし、ヒルデも思わず振り返った。


「破格過ぎるだろ!それ絶対、何かあるって疑う金額だぞ!」


「いやぁ。」


アリスは頭を掻く。


「お父ちゃんもお母ちゃんも亡くなってますし。

お父ちゃん、人間のお母ちゃんと結婚した時に親戚中から勘当されちゃって。

心配してくれる人もいませんでしたから。

失うものなんて無いから、まぁいいかって!」


そして、胸を張る。


「背に腹は代えられませんし!」


ナンシーは額へ手を当てた。


「それにしてもよ……。」


「福利厚生も良かったんですよ!」


アリスは笑顔を崩さない。


「三食付き!部屋付き!あ、屋根裏でしたけど!

雨風しのげるだけ十分です!」


ヒルデは頭を抱えた。


「お前、今までどんな生活送ってきたんだ……。」


「私が九歳の時にお父ちゃんが亡くなって。十三歳でお母ちゃんも。

ハーフだから、まともな仕事は雇ってもらえなくて。日雇い掛け持ちしてました。」


ナンシーは何も言えなかった。


「……苦労したのね。」


「まぁ。」


アリスは照れ臭そうに笑う。


「それに……。

王宮で超絶イケメンに声掛けられて……浮かれない女っています?」


ヒルデとナンシーは顔を見合わせた。


「……。」


「……。」


ヒルデが頷く。


「それもそうだ。」


ナンシーも苦笑した。


「私でも舞い上がるわ。」


「アリス姉ちゃーん!」


ジンとナンシーの息子・トニーが駆け込んでくる。


「お客さん!」


「え?私?」


「うん!」


トニーの後ろには、一人の旅人が立っていた。

深く被ったフードを外す。

その顔を見た瞬間、アリスは立ち上がった。


「……ケティーさん!」


「アリスさん!」


ベアトリス付き侍女・ケティーだった。


「良かった……!ご無事だったんですね!」


思わぬ再会に、アリスも笑顔になるが、すぐに表情が曇った。


「……まさか。連れ戻しに?私、生きてるのバレました?」


ケティーは静かに首を振る。


「いいえ。アリスさんの生存を知っているのは、お嬢様と私たちだけです。」


一拍置いて、続ける。


「私は、お嬢様の命で参りました。」


鞄から一冊の書類と革袋を取り出す。


「未払い賃金。慰謝料。

そして、勤務中に発生した一連の事件についての事実確認です。」


アリスは目をぱちくりさせた。


「あの。労災っております?勤務時間中に拷問されたんですけど。」


ケティーは真顔で頷く。


「ええ。その件も含めて、お話を伺いに参りました。」


ヒルデとナンシーは顔を見合わせた。


「……まともな獣人もいるんだな。」


ヒルデがぽつりと呟くと、ナンシーは静かに微笑んだ。


「国を治める人がいなかったら。それはもう、国とは呼べないもの。」


風が薬草を優しく揺らした。


遠く離れた王都では今も混乱が続いている。

しかし、この小さな村から、少しずつ、未来を変えるための歯車が動き始めていた。

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