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偶に現れるよく分からない個体

「……信じられない。」


女性エルフの治癒師・ヒルデは、小さく息を漏らした。


目の前の少女へ何度も回復魔法を掛け終えたばかりである。


傷は癒えたし、命も繋ぎ止めた。

だが、一つだけ理解できないことがあった。


「……本当に”死の谷”にいたの?マスクも付けずに?」


ベッドの傍らに立つドワーフの親方・ニックが腕を組む。


「信じられねぇだろ?

拾ってきた俺たちだって、いまだに信じられねぇ。

普通なら瘴気で即死だ。」


隣に立つ弟子のジンも、うんうんと頷く。

ヒルデは少女の寝顔を見つめた。


「獣人族と……人間のハーフか。

たまにいるんだ。理屈の通じない生命力の子が。」


「理屈が通らない?」


「うん。」


ヒルデは苦笑した。


「医学でも説明できない個体が、たまに生まれる。」


「……なるほど。」


「全然分からん。」


その時だった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


部屋中に絶叫が響く。


「火焼きは勘弁してぇぇぇぇーーー!!」


「「「何されたんだ!?」」」


三人は同時に飛び上がった。

アリスは飛び起きたまま肩で息をしている。


「……あれ?」


きょろきょろと辺りを見回す。


「ここ……どこ?」


腕を見て、脚を見る。そして身体を触る。


「傷……ない。痛くもない……。私、生きてる?」


「生きてる。」


ヒルデは優しく微笑む。


「先に白湯を飲みなさい。

ゆっくりな。一気に飲んじゃ駄目。」


差し出された木のマグカップを受け取り、アリスは恐る恐る口を付ける。


こくり、こくり、とゆっくりと飲み干す。


温かい。


「はぁ~~……。」


全身から力が抜けた。


「絶対死んだと思ったぁ……。

私、何で生きてるんですか?」


「こっちが聞きたい。」


ヒルデは即答した。


「君は死の谷で倒れていた。このドワーフたちが見つけて、ここまで運んできたんだ。」


アリスはヒルデの隣へ視線を向ける。

二人のドワーフが照れ臭そうに頭を掻いていた。


「助けてくださったんですか……?」


「おう。」


ニックは豪快に笑う。


「驚いたぜ!マスク無しで生きてる奴なんざ初めて見た!」


「目ぇ覚ましてくれて安心したわ。」


アリスは勢いよくベッドの上で正座して、深々と頭を下げる。


「助けていただき、本当にありがとうございます。

このご恩は、一生掛けて、全身全霊でお返しします。」


「「重い。」」


即座にツッコまれた。


「そんな背負わなくていい。」


「まず飯食え。」


「生きろ。」


アリスは少しだけ笑った。


「……はい。」


部屋の空気が少し和らぐ。

ヒルデは椅子へ腰掛けた。


「改めて自己紹介を。

私はエルフのヒルデ。この村で治癒師をしている。」


「俺はドワーフのニック。鍛冶職人どもの親方だ。」


「俺はジン。親方の弟子みたいなもんだ。」


「アリスです。獣人族と人間のハーフです。」


ヒルデは静かに頷いた。


「アリス。話せる範囲で構わない。君に何があった?」


部屋が静まり返る。


アリスは膝の上で拳を握り締めた。

そして、ぽつりぽつりと語り始める。


宮殿へ入ったこと、獣王と出会ったこと、王太后に目を付けられたこと。


拉致、拷問、死の谷。


全てを話し終えた頃には、部屋は水を打ったように静かだった。


最初に口を開いたのはニックだった。


「……え?」


ジンが真顔で続ける。


「それ、本当に国の話か?」


ヒルデは額を押さえる。


「前から良くない噂は聞いていたけど……。」


ニックは腕を組んだ。


「山賊じゃねぇか。」


ヒルデは静かに首を振る。


「……山賊の方が、まだ話が通じる。」


部屋は再び静まり返る中、アリスだけが首を傾げる。


「……え?獣人国って、普通じゃないんですか?」


「「「普通じゃない。」」」


三人の声が、綺麗に重なった。

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