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3/11

拉致されるスケジュールなんて、持ち合わせてない!

「何ですって?」


王太后の手が止まった。


優雅なティータイムは、一人の侍女が持ち込んだ報告によって終わりを告げる。


「陛下が、侍女と逢瀬を重ねているとの報告が……。」


「侍女?」


「はい。」


侍女は少し言いづらそうに続けた。


「……人間とのハーフでございます。」


カチャリ、とティーカップが音を立てて受け皿へ戻された。


「穢らわしい。」


王太后は静かに立ち上がる。


「高貴なる獣王を誑かすとは……何たる身の程知らず。」


侍女が恐る恐る口を開いた。


「あの……お声を掛けられたのは陛下の方だと――」


「黙りなさい。」


ぴしゃり、と言い放つ。


「男というものは、時に惑わされるものです。

全てはあの女が誘惑した結果。

王宮の秩序を乱す者を見過ごすわけには参りません。

全ては王家のため。」


侍女たちは顔を見合わせた。


(……いや、陛下から声掛けたって聞いてるけど。)


誰も口には出さなかった。


王太后は既に、自分の中で結論を出していたからである。


◇◇◇


その頃。


「はい、どうぞ。」


アリスは焼きたてのクッキーを差し出した。


「ありがとう。」


ウィリアムは微笑みながら受け取る。


「今日は薪割り無かったのか?」


「午前中で終わりました!」


「相変わらず早いな。」


「仕事は段取りっス!」


胸を張るアリスに、ウィリアムは思わず笑った。


「君は本当に――」


その時だった。


「……っ!」


ウィリアムが突然胸を押さえる。


「陛下?」


ゴホッ。


激しい咳が響く。


一度、二度、三度。


「ゴホッ……!」


膝をついたウィリアムに、近衛兵たちが駆け寄る。


「陛下!」


「医師を!」


「アリスさん!離れて下さい!」


「感染るかもしれません!」


宮殿中が騒然となる。


診断結果はすぐに出た。

獣王家の血を引く者だけが発症する、特有の病。


命に別状はない。しかし、暫くは療養が必要だった。


その報告を聞いた王太后は、ゆっくりと目を閉じた。


「……そう。」


そして、ゆっくりと立ち上がった。


「陛下が倒れた原因が分かりました。」


「え?」


侍女が目を瞬かせる。


「穢らわしいハーフの女。毒されたのです。」


「……ですが、この病は王家に代々――」


「黙りなさい!」


王太后の一喝が部屋に響く。


「王宮の秩序を乱し、陛下を惑わせた。

王家を守るためにも、罰を与えねばなりません。

直ちに、あの女を捕らえなさい。」


「……はっ。」


命令は下った。誰一人として逆らえなかった。


その頃。


「ふんふふ〜ん♪」


アリスは鼻歌交じりに洗濯物を畳んでいた。


「今日の晩ご飯、何かな〜。」


そこへ、鎧姿の兵士たちが現れる。


「アリス。」


「はい?」


「王太后様がお呼びだ。」


「えっ?」


次の瞬間、両腕を掴まれた。


「えぇぇぇぇ!?ちょ、ちょっと待ってぇぇぇ!!私なんかしましたぁぁぁ!?」


ずるずると引きずられていく。


「拉致される予定なんて手帳に書いてないんですけどぉぉぉ!!」


「静かにしろ。」


「いやいやいや!せめて事前連絡くださいよぉぉ!!

普通こういうのって書面とかあるじゃないですかぁぁ!!」


兵士たちは顔をしかめた。


「「「……うるさっ。」」」


それでもアリスは叫び続ける。


何が起きているのか。なぜ自分が連れて行かれるのか。何一つ分からないまま。


その日、彼女は王宮の地下牢へと姿を消した。

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