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正直に言います。イケメンに声掛けられて、浮かれました

ガコン。ガコン。


乾いた音が中庭に響く。


斧が振り下ろされるたび、薪は寸分違わず真っ二つに割れていく。


「ふぅ……。」


額の汗を袖で拭い、アリスは次の薪へ手を伸ばえた。


そこへ、一人の青年がアリスへ声を掛けた。


黄金の髪に、獅子の耳。堂々たる体躯。


獣人国国王――ウィリアムである。


「……見事だ。」


突然掛けられた声に、アリスは振り返った。


「はい?」


その瞬間、ウィリアムは息を呑む。


榛色の大きな瞳に、陽の光を受けて輝く茶色の髪。

雪のように白い肌、人形のように整った顔立ち。


思わず時間が止まったような錯覚を覚える。


(……美しい。)


しかし、当の本人は。


「すんません、薪飛びませんでした?」


「え?」


「いやぁ、お父ちゃんから『薪割りは周り見てやれ』って耳にタコできるぐらい言われてたんです〜。」


ウィリアムは目を瞬かせた。


(お父ちゃん……?)


「誰か怪我したら、お母ちゃんにどつかれるんですよ。」


「お、お母ちゃん……。」


「そらもう、めっちゃ怖いんですよぉ。」


「……いや、あの。」


「はい?」


「君は……侍女か?」


「そうです。」


「仕事はどうだ?」


「最高です!」


食い気味だった。


「給料は良いですし、ご飯三食出ますし!」


「……。」


「雨の日でも仕事ありますし!」


「…………。」


「あと寝床もあります!」


ウィリアムは初めて聞いた。

ここまで満面の笑みで福利厚生を語る女性を。


「何より!」


アリスは満面の笑みを浮かべた。


「働いた分だけ、お給料が貰えるんです!」


「……。」


「最高じゃないっスかぁ!!」


その笑顔に、ウィリアムは思わず吹き出した。


「ははっ!」


「?」


「いや……君は、本当に面白い人だ。」


「よく言われます。」


「褒めている。」


「ありがとうございます!」


底抜けに明るい笑顔に、飾らない言葉。

そして、誰よりもよく働く姿。


ウィリアムは、この時すでに気付いていた。


自分が彼女から目を離せなくなっていることに。


◇◇◇


ウィリアムは時間を見つけては、アリスの元を訪れ、逢瀬を重ねた。


ウィリアムはアリスの美しさだけでなく、その心の強さにも惹かれていた。


一方のアリスは『超絶イケメンに声掛けられた!ひゃっほい!』と浮かれていた。


二人が密会しているという噂を、ウィリアムの婚約者で公爵家の娘・ベアトリスの耳に入ってしまう。


「……陛下が?」


「はい、穢らわしいハーフの女に誑かされたようで。」


「なんと身の程知らずな!」


カンカンに怒っている二人の侍女を他所に、ベアトリスは考える。


「……側室に迎える予定の子かしら?」


そして、気になったベアトリスは宮殿へと足を運んだ。


「此方です。」


侍女の案内でベアトリスは裏庭までやって来た。


ガコン。ガコン。


規則正しい音が鳴り響く。


「あの者のようです。」


ベアトリスと二人の侍女の目に飛び込んできたのは――。


一定のリズムで薪を割るアリスの姿だった。


三人は黙ってアリスの薪割りを見守る。


「……美しい。」


ベアトリスがポツリと呟く。


「腕の振り方、完璧です。」


「動きに無駄もなく、力加減も絶妙です。」


"穢らわしいハーフが!"と罵倒していた侍女たちまで見惚れていた。


アリスの薪割りフォームは、それほど完璧でもはや芸術の域だった。


「陛下も惚れるわけよ……。あんなに美しい薪割り、見た事がないわ。」


普通なら、"婚約者を誑かした卑しい女!"と怒るところだろうが、ベアトリスは違った。


完全にアリスの薪割りする姿に惚れていた。


「ふう……!!」


アリスは一息付いて、額の汗を拭う。


「「「お見事!!」」」


パチパチパチ!と拍手が聞こえたので振り向くと、滅多にお目に掛かれない妖艶美人と二人の侍女が拍手をしながら、アリスに近付いてきた。


「あ、こんにちわ。」


「こんにちわ。

初めまして、私は公爵家の娘のベアトリスよ。

貴女がアリスさん?」


「はい、そうです。……あの。」


「貴女の薪割り、完璧よ!素晴らしいわ!どなたに教わったの!?」


ベアトリスは食い気味で質問する。


「えっと、お父……いえ、父からです。あの、薪は飛んでませんでしたか?」


「いいえ!完璧です!」


「薪を飛ばさずに割るなんて、素晴らしい!」


ベアトリスの後ろに控える侍女たちが絶賛していた。


「疲れたでしょう?ここらで休憩しませんか?

お茶でも飲みながら、お話したいわ。」


「ええ〜?良いんですか〜?」


「労働後の甘いものほど、良いものはありません!」


「さあ!こちらです!」


侍女二人に手を引かれ、アリスはベアトリスとお茶することにした。


かたや獣王の婚約者。かたや獣王の想い人。


普通なら火花が散る場面である。

しかし、この日飛び散ったのは薪だけだった。

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