運命の恋が始まると思った?死の谷への片道切符だったわ
人間、エルフ、ドワーフ、魔族、そして獣人族。
数多の種族が共に暮らす世界。
その中でも、獣人族は誇り高き戦士の一族として知られ、強大な国を築いていた。
――少なくとも、本人たちはそう思っている。
そんな獣人国に、一人の少女がいた。
名はアリス。獣人族の父と人間の母を持つハーフである。
人間への差別が根強いこの国で、ハーフである彼女は底辺以下の扱いを受けていた。
だが、本人はあまり気にしていない。
必要以上に頑丈な身体に、雑草も裸足で逃げ出すほどの図太さ。精神力は鋼より強い。
今日も元気に生きている。
そんなある日。
街中に一枚の御触れが貼り出された。
『宮殿侍女、大募集!!』
報酬、一か月につき金貨十枚。
この国の平均月収は銀貨二十枚から三十枚ほど。
銀貨二十枚あれば四人家族が慎ましく暮らせると言われるこの国で、金貨十枚など破格も破格。
もはや「募集」ではなく「何かある」と疑うレベルである。
しかし、アリスは違った。
両親は既に他界。親戚付き合いもなく、帰る家も頼る相手もいない。
「一カ月の報酬がいい。」
その一言だけで応募を決めた。
恋が始まるなどとは考えていない。
ただ、金が欲しかっただけである。
……もっとも。
この時のアリスはまだ知らない。
その募集が、宮殿への招待状ではなく――死の谷への片道切符だったことを。
面接会場に行くと、案の定、アリスは他の募集者から露骨に避けられた。
「穢らわしいハーフが。」
「身の程知らずな……。」
しかし、アリスのその精神は鋼。
嫌味をBGMとして聞き流し、面接に臨んだ。
そして、面接担当の女官長にその図太さを見込まれ、見事採用された。
アリスの就職に、同期や先輩たちは面白くなかった。
ハーフということもあるが、その美貌も嫉妬の対象となっていたのだ。
美しい茶髪に榛色の大きな瞳、雪のように白い肌。
まるで造形物のような整った顔立ちは、見るものを惹きつける何かを持っている。
宮殿でも相変わらず、嫌がらせを受けていた。
しかし、アリスもやられっぱなしな訳ではない。
「口動かす暇あるなら、手ぇ動かせよ。」
「働かないと飯食えないんで。」
「アンタらが悪巧みしてる間、私はもう二つ、三つほど仕事を終わらせたけど?」
「庭の雑草抜き、私がやった方が早いわ。」
「今日はいい天気だから、シーツ全部洗ってやったわ!」
アリスの働きぶりに、上司たちの見方は変わった。
「あの子、誰よりも早く起きて、誰よりも早く動く。」
「仕事も丁寧だし。」
「何より力もありますし、根性が桁違いよ。」
そんなある日。
アリスは、上司に薪割りを頼まれた。
「これ一人で出来る?」
上司が指差すのは、山のように積まれた薪だった。
「ほかの子達にやらせると、時間が掛かるのよ〜。
あと、文句も多いし。やれ腕が痛い、だとか、やれ腰が痛い、とか……。」
「本当に獣人族ですか?」
「それは私も思ってる。」
アリスは薪を見つめる。
「いつまで?」
「そうね〜。今日中に3分の1ほど終わらせてくれたら、助かるわ。」
「分かりました。」
アリスは斧を取り、さっそく薪割りを始める。
薪の置く位置、腕の振り方、力加減。
全て、完璧だ。
「じゃあ、お願いね〜。
今日中に全部までやる必要はないのよ、夕方には戻ってくるのよ〜。」
「はい!」
そして、上司は自分の持ち場へと戻っていった。
アリスは黙々と斧を振る。
「せいっ!」
ガコン。ガコン。
積み上げられた薪は、見る見るうちに半分以下になっていく。
その様子を、遠くから眺める一人の青年。
金色の鬣のような髪、獅子の耳。
獣人国の頂点に立つ男――獣王・ウィリアムである。
「……あの娘は?」
「先月入った侍女でございます。」
獣王はしばらく薪を割るアリスを眺め、「面白いな。」と、小さく笑った。
その一言が、アリスの人生と、周辺諸国の外交を大きく狂わせることになるとは、この時まだ誰も知らない。
Q. 王様がなんで薪割りしてる場所まで来るんですか?
A. 散歩です。
その日はたまたま普段行かない裏庭までフラッと歩いてきました。
気にしたら負けです。
フィクションです(笑)




