公爵家、改革案を引っ提げて帰国します〜仕事しない貴族たち、席空けろ〜
春。
獣人国にも、穏やかな風が吹き始めていた。
各国との交渉が始まってから、およそ半年。
決して順風満帆ではない。
それでも一歩ずつ、少しずつ、獣人国は変わり始めていた。
◇◇◇
王宮。
「陛下。」
ランバードは新たな報告書を机へ置いた。
「魔国より正式な返書でございます。」
ウィリアムは静かに目を通す。
そこには、短くこう記されていた。
『貴国の誠意は確認いたしました。』
『今後も交渉を継続いたします。』
『なお、公爵家一門より申し出がございました。』
「……ベアトリスが?」
ランバードは頷く。
「はい。」
「ベアトリス様ならびに公爵家一門は、帰国の意思を示されました。」
ウィリアムは思わず立ち上がる。
「本当か!」
「ですが。」
ランバードは一枚の書類を差し出した。
「条件がございます。」
ウィリアムは静かに読み進める。
『能力に応じた人事制度への改革。』
『他種族やハーフへの不当な差別の是正。』
『正当な賃金の支払いを義務化。』
『外交・法務部門の独立。』
『王太后による政治介入の停止。』
『各国との友好関係を維持すること。』
沈黙が流れる。
「……随分と厳しいな。」
「ですが。」
ランバードは穏やかに微笑んだ。
「どれも、この国に必要なことばかりです。」
ウィリアムはゆっくりと書類を閉じた。
「……そうだな。」
迷いはなかった。
「全て受け入れよう。」
◇◇◇
数週間後。
王宮の大広間には、多くの貴族が集められていた。
「本日をもって。」
ウィリアムは玉座から静かに告げる。
「役職の見直しを行う。」
場内がざわめく。
「能力と実績を重視する。身分だけで役職は保証されない。」
さらに続ける。
「他種族であることを理由とした差別も認めない。
今後は能力ある者を広く登用する。」
ある貴族が立ち上がった。
「そのような前例はありません!」
ウィリアムは静かに答える。
「だからこそ、変える。」
場内は再び静まり返った。
◇◇◇
同じ頃、魔国ではベアトリスたち公爵家の面々が魔王の御前に並んでいた。
「それじゃあ。」
魔王はベアトリスへ微笑む。
「いよいよ帰るのね。」
「はい。」
ベアトリスも笑顔で頷いた。
「長い間、お世話になりました。」
「いいのよぉ。」
魔王は肩をすくめる。
「優秀な人材に投資しただけだもの。」
公爵も深く頭を下げる。
「このご恩は忘れません。」
魔王はくすりと笑う。
「返すなら。」
少しだけ真面目な顔になる。
「今度はアンタたちが、あの国を良くしてあげなさい。」
ベアトリスは真っ直ぐ頷いた。
「必ず。」
◇◇◇
一方、魔国へ渡った職人たちにも、それぞれ決断の時が訪れていた。
「俺は残る。」
「こっちで工房を持つ。」
「俺は帰るよ。」
「公爵様の下で働きたい。」
「俺も故郷を立て直したい。」
誰もが、自分で選んだ。
強制されることなく、自分の意思で。
それが、この半年で獣人国がようやく学び始めたことだった。
Q. 公爵家や職人たちって、亡命したんじゃないの?
A. 一時避難です(笑)
今回の亡命は、逃げることが目的ではありません。
「優秀な人材が一斉に抜けたら、この国はどうなるのか。」
それを王家や貴族たちに身をもって理解してもらうための、いわば荒療治でした。
実際、公爵家が抜けた途端、「点滴しながら働いてた人、めっちゃ重要人物だったんだ……。」と、ようやく気付いたわけです(笑)
作者的には、「会社って、辞められて初めて重要性に気付く人、おるよね。」
そんなイメージで書いていました(笑)




