愛する人から慰謝料請求された男の話
魔王の説教がようやく終わり、ランバードはアリスからの手紙を差し出す。
「会うことは叶いませんが、お手紙なら、と預かりました。」
ウィリアムはゆっくりと顔を上げる。
「……お前は、アリスに会ったのか?」
「ヒルデ先生から渡されましたので。」
ランバード、ここ最近『嘘も方便』というのを覚えた。
「ほら、今日はもう帰んなさい。お手紙はお家に帰ってゆっくり読みなさいな。」
魔王はハリセンを肩に担ぎながら告げる。
「それでは……私はこれで。」
ウィリアムは手紙を大事そうに握り、魔王に一礼し、ランバードを連れて帰って行った。
「……ようやく分かってくれたかしら?」
「あれで分からなければ、お終いです。」
終始、空気と化していた側近はポツリと呟いた。
秒で飛んで帰ったウィリアムは、早速執務室へと戻り、封を切る。
「陛下、良かったですね。」
「アリスさんもお優しい。」
「私なら無理ね。」
「ええ、あんな事があったのに……。」
従者と女官はコソコソと言い合った。
普通なら、王族に対しての不敬になるところだが、アリスからの手紙で頭の中を占めているウィリアムの耳には届いていない。
『陛下へ。』
そう書かれた、優しくもしっかりとした女性らしい文字。
「……アリスの字だ。」
見間違えるはずがない。
愛した人の文字。
ウィリアムは一度深呼吸をして、続きを読む。
『お元気になられたようで、良かったです。
私は、この村でドワーフの皆さんやヒルデ先生によくして頂いております。
もう、国に帰るつもりはありません。
正直に申し上げますと、御免被ります。無理です。嫌です。また拷問とか冗談じゃありません。
私はこの村で、今まで通り生きていきます。
私のことはどうか、忘れて下さい。
花の妖精が通り過ぎた、ぐらいに思ってて下さい。
お元気で。ご無理はなされないように。
陛下の安寧をお祈り致しております。
アリス』
ウィリアムは暫く固まった。
そして、頬に一筋の涙が溢れた。
「……アリス。」
従者と女官たちは目を逸らす。
(うん、アリスの言い分は分かる。)
(そりゃ、トラウマの元凶だもんな。)
(アリス……あんまり心配してないけど。
貴女の事だから、何処でも生きていけると思うけど……。)
(生きろ。)
ランバードは小さく息を吐いて、ウィリアムの側へ行く。
「陛下。」
そっとハンカチを差し出した時に、何気なく手紙に目線を落とす。
「……陛下。追伸があります。」
「なに!?」
ウィリアムは慌てて手紙に目線を戻す。
『P.S.
慰謝料はベアトリス様から頂きましたが、それは後宮からの慰謝料だと伺いました。
労災につきましては、既に処理済みとの事です。
しかし、王家から慰謝料貰ってません。払ってください。
慰謝料の持参は、使者の方へお願いします。』
沈黙が執務室に流れる。
暫くして、ウィリアムは口を開いた。
「ランバード。」
「はい、陛下。」
「慰謝料というものは、払わないといけないのか?」
ランバードはほんの少し、頭が痛くなった。
「……勤務時間中の事件ですので……。」
ウィリアムは黙ってしまう。
控えていた女官が一歩前に出た。
「法務大臣を呼んで参ります。」
「頼んだ。」
女官は一礼してから部屋を出た。
ウィリアムだけは、まだ納得がいかないという表情を浮かべていたが、ランバードは手続きを優先させる事にした。




