魔王様の外交講座、再び
突然、魔王に殴られたウィリアムは目を白黒させた。
ランバードは固まり、入門書を持ったドワーフも固まる。
ドラゴンとドワーフの子供たちも固まっている中、魔王の側近だけは平然と後ろに控える。
「正座しなさい。」
「……え?」
「正座。」
「あ、あの。」
「正座。」
「魔王陛下、私は――」
「せ・い・ざっっ!!」
「……はい。」
ウィリアムは大人しく正座した。
「……ランバード。入門書にサインしろ。あと、獣王陛下の分もだ。」
「はい。」
「ありゃ、長ぇぞ。お前だけでも先に親方んとこ行っとけ。」
「い、良いんですか?」
「ここは魔王様に任せとけ。お前はお前の仕事しろ。」
入門書へサインを終えたランバードは、さっさとニックの工房へと行き、ドワーフも自分の持ち場へと戻って行った。
ドラゴンは空気を読んだのか、子供たちを乗せて、村の端の方まで飛んで行った。
どうやら、この村で一番空気が読めないのは獣王だったらしい。
「……アンタ、私の話を聞いてた?」
「そ、それはもちろん……。」
「まだお呼びじゃないのに、どうして来たの!?」
「アリスに、一目だけでも良いから、会いたくて。」
魔王は空を見上げた。
「……アンタ、一国の王よね?」
「そうだ、私は獣人国の王で――」
「なんで、アンタだけロマンス街道まっしぐらなのぉぉ!!国が大変な時に何してんのぉぉぉ!!」
バシィィィィンッッッッ!!
ハリセン、二発目が炸裂した。
「痛ぁぁ!!」
「当たり前よ!痛くしてんだからぁ!!」
魔王は大きく息を吐く。
「なんで、ランバードに任せないの!!」
「い、いつまで経っても、交渉すら入れないと。」
「待ちなさいよ!!」
「で、でも」
「でも、じゃない!!アンタは一国の王なの!!
アンタの感情優先してたら、国が持たないでしょうが!!
現に!!アンタのお母様がやらかして、アンタがアリスちゃんの身柄をちゃんと整えなかったせいで、こうなってんでしょ!!」
ぐうの音も出ない……。
「恋愛は自由!自己責任!でも、アンタは責任を果たさないといけない立場なのよっ!!」
魔王の説教はかれこれ、三時間続いた。
その様子を、建物の影から見守っていたアリスは、見た事ないぐらい、ガタガタ震えていた。
「ア、アリスさん……。」
側に居たランバードは恐る恐る声を掛ける。
「あ、あの、陛下は……何故、こちらに?」
震え過ぎて、アリスの姿がブレまくっている。
「えっと……アリスさんに一目会いたいという気持ちが暴走して……。
申し訳ございません……止めたのですが。」
ランバードは申し訳なさそうに頭を下げる。
「……アリス、一旦止まれ。」
ヒルデがアリスの肩を置くが、震えは止まらない。
「……私を、連れ戻しに来たんでしょうか……。」
「恐らく……。」
アリスが更に震えた。
「い、嫌だ。」
「分かります。あんな事があったんですから。」
ケティーもアリスの肩に手を置く。
「お会いするのは……無理ですね。」
ランバードがそう声を掛けると、アリスは首振り人形の如く、コクコクと頷いた。
「無理。」
すると、ケティーが何か閃いたらしい。
「お手紙は書けそうですか?」
アリスはようやく止まった。
「それなら……。」
「アリスさん、私がお届けいたします。」
「お願いします。あ、そうだ。ランバードさん、ちょっと相談が……。」
「私で良ければ……。」
そう言って、アリスはランバードに耳打ちをする。
アリスの言葉に、ランバードの眉間の皺は段々、深くなっていく。
暫く考え、ランバードはようやく口を開いた。
「……その件に関しましては、私では判断出来かねますので……。
陛下に、お手紙でお伺いした方が宜しいかと。」
「そうですか。じゃ、ちょっと待ってて下さい。」
アリスはヒルデの家へと向かった。
そして、十分後。
アリスは一通の封筒を持って戻って来た。
「お願いします。」
「お預かりいたします。では、親方殿。また来週。」
「ああ、お疲れさん。」
ランバードは今だに魔王に説教されている獣王の元へと歩いて行った。




