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16/20

三か月頑張った外交官の胃が限界を迎える頃

獣人国が各国との交渉を始めて、三か月。


人間国、魔国、エルフ領。


交渉は決して順風満帆とは言えなかったが、それでも以前とは違う。


少しずつではあるが、互いの主張をぶつけ合い、歩み寄る姿勢が生まれ始めていた。


外交は、一歩ずつ積み重ねるもの。焦って結果が出るものではない。


◇◇◇


王宮。


「ランバード。」


執務室へ入るなり、ウィリアムが声を掛けた。


「はっ。」


「ドワーフ領との交渉はどうだ。」


ランバードは書類を開く。


「取引停止につきましては、段階的な条件緩和について話し合いが始まっております。」


「そうか。」


ウィリアムは頷く。


「では。」


期待に満ちた目を向ける。


「アリスは?」


ランバードは固まった。


「……。」


数秒、沈黙。


「えっと……アリス殿の件になりますと。」


静かに息を吐く。


「ドワーフの皆様は、今なお聞く耳を持ってくださいません。交渉の席に着くことすら叶わない状況です。

取引停止についてなら話し合う、と仰ってくださるのですが……。」


ウィリアムは眉を寄せた。


「何故だ。」


部屋が静まり返る。


側近たちは一斉に俯いた。


(王太后陛下が雑に扱ったからですよ。)


(死の谷へ捨てたからですよ。)


(信用って、そう簡単には戻らないんですよ……。)


誰一人、口にはしない。

ランバードもまた、静かに目を伏せた。


「……。」


ウィリアムは腕を組み、しばらく考え込む。


やがて、ポツリと呟く。


「……もう良い。」


その一言に、部屋の空気が少しだけ軽くなった。


(……諦められたのか?)


誰もがそう思ったが、ウィリアムは勢いよく立ち上がる。


「私自ら参ろう!」


「「「……え?」」」


部屋中の時間が止まった。


「ランバード!」


「は、はい!」


「支度だ!」


「どちらへ……。」


「決まっている!」


ウィリアムは拳を握る。


「ドワーフの村だ!」


ランバードは笑顔のまま固まった。


「…………。」


隣に立っていた若い従者が、ガクッと膝から崩れ落ちた。


「お、おい!」


もう一人の従者が慌てて抱き起こす。


「しっかりしろ!」


「……胃薬を。」


「え?」


「胃薬を……ください……。」


ランバードは天井を仰いだ。


(……魔王陛下。あの日の外交講座を、もう一度お願いいたします。)


彼は本気でそう願った。


その頃、ドワーフの村では……。


ドワーフの子供たちは、魔王が連れて来たドラゴンに、纏わり付いていた。


その大きな身体によじ登ってみたり、大きな足や尻尾を撫でてみたりと、興味津々。

ドラゴンは嫌がるそぶりすら見せず、子供たちの好きなようにさせていた。


「ちょっとアンタたち〜!オモチャじゃないのよぉ〜!」


今日も今日とて、魔王は村にやって来た。

この人、暇じゃないはずなのに、しょっちゅう来ている。


「陛下、ドラゴンも嫌がっておりません。」


「見りゃあ分かるわよ。だけど、ドラゴンって割と繊細な子なのよぉ。どこでストレスになるか、分からないもの。」


その時、魔王と側近が空を見上げる。


「……この気配は。」


「ランバードと……あのお馬鹿さんね。」


少しして、村に二人の青年が降り立つ。


「こらぁぁぁ!!ランバードぉぉぉ!!入門手続きしろぉぉぉ!!」


櫓から見張りのドワーフの怒鳴り声が響く。


「申し訳ございませんっ!」


「ったくよぉ!今からそっち行くから!動くんじゃねぇぞ!」


一人のドワーフが入門書を持って、走る。


「……アンタ。」


魔王はランバードと共に降り立った青年を睨み付けた。


黄金の髪に、獅子の耳。堂々たる体躯。

獣人国国王――ウィリアムである。


「何しに来たの?」


「アリスに会いに来た。」


数秒、沈黙。


魔王は盛大に溜め息を吐いた。


「……ランバード。」


「はい。」


「アンタは?」


「……止めました。」


「でしょうね。」


そして、何処からか取り出したハリセンで、ウィリアムの頭を思いっきり引っ叩いた。


「お馬鹿ぁぁぁーーー!!私の話、聞いてたぁ!?」


魔王の悲鳴が、村中に響いた。

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