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魔王様による外交講座

「はいはいはい!ストップ、ストップぅ〜!」


よく通る声が戦場へ響いた。


「そこまでよぉ!」


砲撃準備を進めていたドワーフたちが、一斉に振り向く。


「……魔王様?」


ニックが眉をひそめる。


「なんで止めるんだ?」


「アイツら、アリスを攫いに来たんだぞ!」


魔王は額へ手を当て、大きくため息をついた。


「もう!外交音痴同士が盛大にすれ違ってるじゃない!

ここは私が話を聞いてくるわ。アンタたちは一旦待機!」


「……分かった。」


ニックは渋々頷く。

魔王は隣の側近へ視線を向けた。


「アリスちゃんは?」


「昨夜お越しになったケティー殿と共に避難していただいた方がよろしいかと。」


「そうね。」


魔王はにっこり笑う。


「じゃ、ここはお願い。私はあのワンちゃんやネコちゃんたちと話してくるわ。」


「はっ。」


次の瞬間、魔王は砦の上から軽やかに飛び降りた。


ズドン!


見事なヒーロー着地。


「……陛下。」


獣人軍の側近が目を見開く。


「あれは……。」


ウィリアムも静かに頷いた。


「魔王だ。」


魔王は服についた砂を払うと、そのまま軍勢の中央まで歩いていく。


「アンタ。」


ウィリアムを指差した。


「獣人国の王様かしら?」


「あ……ああ。そうだ。」


圧倒的な美貌、艶やかな黒髪に長身。


そして……。


「よろしくねぇ。」


「「「…………。」」」


獣人軍がざわついた。


(オネエだ……。)


(魔王様、オネエだったのか……。)


誰も口には出さない。魔王は気にしなかった。


「それで?こんな大軍連れて、何しに来たの?」


ウィリアムは胸を張る。


「決まっている。アリスを迎えに来た。」


数秒、沈黙。


「…………。」


魔王はゆっくり深呼吸した。


そして。


「お馬鹿ぁぁぁぁーーーっ!!」


戦場中へ怒号が響いた。


「恋人迎えに来るのに!なんで五千人も連れて来るのよ!」


ウィリアムは思わず一歩下がる。


「そ、それは……護衛を……。」


「護衛ぇ!?」


魔王は両手を広げた。


「こんな大軍引き連れて来たら!侵攻だと思われるでしょうがぁぁ!!

そりゃドワーフも撃つわよ!外交音痴にも程があるわ!」


ドワーフたちが砦の上から叫ぶ。


「その通りだーー!!」


「そうだそうだーー!!」


魔王は振り返った。


「アンタたち!お黙り!!」


「「はい。」」」


一瞬で静かになった。

魔王は再びウィリアムを指差す。


「よぉぉく聞きなさい!!まず!」


指を一本立てる。


「事前に知らせを送る!」


二本目。


「使者を一人。多くても三人よ!」


三本目。


「相手と交渉!」


四本目。


「会うのは、それから!」


ウィリアムは何も言えない。


「し……しかし。私が迎えに行けば、喜ぶかと……。」


魔王は頭を抱えた。


「喜ぶ女がいるわけないでしょうが!五千人付きで!」


「…………。」


「今日のところは帰りなさい。出直し!初手から全部やらかしてるのよ!」


ウィリアムは俯いた。


「……せめて、一目だけでも。」


「駄目。」


即答だった。


「今日は帰る。それが一番。」


しばらく沈黙が流れ、やがてウィリアムは静かに頷いた。


「……分かった。」


「全軍、撤退。」


獣人軍は渋々引き返していく。


砦の陰で、アリスとケティー、ヒルデが様子を窺っていた。


「……帰った。」


アリスが胸を撫で下ろす。


ケティーは考え込む。


「お嬢様がいらっしゃれば……。こんな軍の出し方は絶対に止めていたはず。

それが出来なかったということは……お嬢様は今、自由に動けない状況なのでしょう。」


ヒルデも静かに頷いた。


「可能性は高い。

ケティー殿。しばらく村へ留まりなさい。

いま国へ帰るのは危険だ。」


「ですが、お嬢様が……。」


アリスは腕を組んで少し考えた。


「うーん。でも、ベアトリス様が大人しく拘束されてるとは思えません。

公爵家のお嬢様ですよ?流石に私みたいな粗相はしないでしょう。」


ヒルデは思わず苦笑した。


「……説得力が桁違いだ。」


三人は思わず笑ってしまう。


戦争になりかけた戦場にも、ようやく静けさが戻り始めていた。

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