労災の補填について
ウィリアムは王宮の廊下を歩いていた。
すると、一室から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「労災の補填に関しまして。」
「ええ。」
ベアトリスだった。
「そのまま進めて。ビタ一文、ケチるつもりはありません。
未払い賃金も慰謝料も、速やかに。」
ウィリアムは足を止める。
(……労災?誰の話だ?)
扉が開き、侍女ケティーが書類を抱えて出てきた。
「……。」
ウィリアムは静かに側近を呼ぶ。
「ケティーを尾行しろ。決して悟られるな。」
「はっ。」
その日の夕刻。
ケティーはドワーフの村を訪ねた。
「こちらが慰謝料です。
未払い賃金、そして勤務中の一件についての労災補償になります。」
革袋を受け取ったアリスは目を丸くした。
「本当に労災おりた……。」
「はい。お嬢様が『一切妥協するな』と。」
「こんなに頂いていいんですか?」
「正当な判断のもと、算出した金額です。
アリスさんがこのお金を受け取るのは当然の権利です。」
「ありがとうございます……。」
日が傾き始めた頃、ニックが空を見上げた。
「今日は泊まってけ。この時間じゃ街道は危ねぇ。」
「では、お言葉に甘えます。」
尾行していた側近は、屋根の上からその一部始終を見届けた。
「……アリス様。ご存命だった……!」
翌朝。
「五千を集めよ。」
「陛下?」
「私自ら迎えに行く。
今度こそ……彼女は私が守る。」
「はっ!」
側近は敬礼した。
(……多い気もするが。)
誰も止められなかった。
その頃、ベアトリスは熟睡していた。
ドンドンドンドン!!とけたたましい音で、ベアトリスは飛び起きる。
「お嬢様!!」
部屋に飛び込んで来たのは、侍女のメタルだった。
「え?何事!?」
「陛下が!五千の軍勢を率いて!」
一拍。
「ドワーフ村へ向かわれましたぁぁ!!」
「…………。え?」
数秒後。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!?」
王宮中へ悲鳴が響いた。
そこへ、国王直属の近衛兵と文官が入ってくる。
「ベアトリス様。
陛下への報告を怠った疑いにより、本日より自室待機を命じます。」
「……は?」
扉が閉まり、ガチャリと冷たい音が響く。
鍵が掛けられてしまった。
ベアトリスは天井を見上げた。
「……その間、誰が政務を回すのよ。」
心配するところが違った。
一方、ドワーフ村。
圧倒的な美貌の黒髪長身の男が、出来上がった鎧を眺め、満足そうに頷いた。
魔国の頂点に立つ、魔王である。
「相変わらず、良い出来ねぇ〜。」
しかし、口から出てきたのは、所謂"オネエ口調"である。
側近もニックも慣れているのか、特に気にしていない。
「それでは残金です。」
側近が金貨袋を差し出す。
「毎度!」
ニックが笑った、その時だった。
ゴォォォン!!と、櫓の鐘が村中に鳴り響く。
「敵襲ぅぅぅーー!!」
「獣人国軍だ!!」
「なんで!?」
「知らねぇ!!」
「砲撃準備!!」
魔王と側近は顔を見合わせる。
「……何かしら?」
「さぁ。」
「必要なら手を貸すわよ。」
「はっ。」
砦の上の砲門が一斉に開く。
魔王は双眼鏡を覗いた。
「……どう見ても侵略よねぇ。」
「取引停止の腹いせでしょうか。」
「あり得るわねぇ。」
「親方ぁ!」
「撃てます!!」
ニックは拳を振り上げた。
「まだだ!」
軍勢が射程へ入る。
「……よし。撃ち方始めぇぇぇ!!」
轟音が辺りに鳴り響き、無数の砲弾が一斉に飛び出した。
ドォォォン!!
獣人軍は大混乱だ。
「なぜ攻撃される!?」
側近が青ざめる。
「侵攻と誤解されております!」
「こんにゃろぉ!!」
ドワーフたちが怒鳴る。
「取引止めた腹いせかぁ!!」
見張りのドワーフが叫ぶ。
「親方ぁ!相手、旗振ってますぜ!?」
「五千連れて旗振る馬鹿が何処にいんだぁぁ!!」
「違う!話を!」
「五千も連れて話だぁ!?」
「おととい来やがれぇぇぇ!!」
「寝言は寝て言えぇぇぇ!!」
ウィリアムも必死だった。
「私は!!アリスを迎えに来たのだぁぁぁ!!」
一瞬、戦場が静まり返る。
魔王と側近は顔を見合わせた。
「……これ。侵略じゃないわね。」
「はい。外交音痴同士の盛大なすれ違いでしょう。」
魔王は盛大に溜め息をついた。
「……仕方ないわね。私が間に入りましょう。
流石にうるさくて、近所迷惑だもの。」
魔王様は90年代ヴィジュアル系バンドのボーカルみたいな、黒髪ロングで妖艶な美丈夫を想像してください(笑)




