095⚫️他の世界線へ行くことができるものならば
義父が永眠して、まだ半年も経たない。
その後を追うようにして、義母が急逝した。
「実家から病院に運ばれています」
救急車の中の妻からの短いメッセージを目にした瞬間、
彼は職場のすべてを放り出し、車を走らせた。
病室では重篤な状態が続いていた。
彼と妻は、そのまま最初の夜を病室で過ごした。
義母は時折、ベッドの高さを調整してほしいと頼み、水が飲みたいとも言った。
’吸い飲み’から甘いジュースを口にして、「美味しい」と微笑んだ。
意識は、確かにそこにあったのだ。
「五割から六割の確率で、命が持たないでしょう・・・。」
医師が告げたその数値を、彼は残酷な宣告として受け止めた。
’もっと悪いのだ’と、直感した。
次女、三女、そして孫たちも駆けつけた。
幼稚園教諭になった’なっちゃん’も、大学生の’さやちゃん’も遠方から到着した。
メロンが食べたいという義母に、もう飲み込む力は残っていない。
家族はせめてと、その果汁を優しく口に含ませた。
親族が支え合い、交代で泊まり込む夜が続いた。
そして・・・。
妻が泣き崩れ、全員がうなだれる中、義母は静かに、永遠の眠りについた。
この世は、なんと無慈悲で、なんと一方通行なのだろう。
義母が今も元気に笑っている、そんな「別の世界線」へ行くことはできないのか。
星の数ほどある可能性のどこかに、この悲しみが存在しない場所はないのか。
叶わぬ願いが胸を締めつける。
彼は強く拳を握りしめた。
こみ上げる嗚咽を、ただ、必死に堪えながら。




