084⚫️熱く、しかも冷静に
ブリッツが拳銃を放つ。
だが、新三郎にとってその銃弾の軌跡は、
春の陽だまりを舞う蝶の羽ばたきよりも遅く見えた。
斬るまでもない。‘星河薫風’を振るい、鉛の塊を叩き落とす。
ブリッツは表情一つ変えず、懐から単発式の拳銃を抜いた。
装填されているのは、‘星幽結晶’を内包した特殊弾。
撃つ。それは、空気抵抗という概念を置き去りにし、
絶対的な直進性をもって新三郎の眉間へと迫る。
その異常な弾速に、新三郎の手元で‘星河薫風’が鋭く応える。
跳ね上がった刃が、不可視の弾を今度こそ、真っ二つにする。
鋭く高い音が耳を劈き、
その破片は左右に別れ、新三郎の後方に飛び去る。
熱風が吹き荒れ、大地に放射状の亀裂が入る。
新三郎が一気に間合いを詰める。
ブリッツは即座にナイフを逆手に抜き、
正面から振り下ろされた‘星河薫風’の一撃を、かろうじて受け止めた。
激突。
飛び散ったのは火花などという生易しいものではなかった。
星が砕けるような閃光が走り、二人の境界で空間が歪む。
凝縮された時空の軋みが大気を渦巻かせ、轟音とともに破裂する。
気づけば、新三郎は銀杏の樹の下に静かに佇んでいた。
嵐のような闘いだったが、不思議と心に波風は立っていない。
ただ、掌が‘星河薫風’の息吹を感じていた。
ブリッツは礫砂漠の中にいた。
彼の世界では、急な変異に驚いては生き残れない。
ただ、今起きた現象を確定した事実として処理し、
スクラップ・ポイントへの道を歩き出す。
キャサリンが、自分の帰りを待っているはずである。




