074●星幽結晶弾-厄介モン弾
工房の奥で、エイブ・マッカートニーは銃弾を手のひらで転がしていた。
階段状の作業台には、六発の弾丸が円形に並んでいる。
どれも、内部に‘厄介モン’の粒を仕込んだ特製弾だ。
見かけ以上の重さだ。
エイブは弾丸を指で転がしながら、眉を寄せた。
重い。だが、ただ重いだけではない。
「おかしいな・・。」
最初は分からなかった。だが、指先の感覚が異常だと言っている。
いろいろと試してみると弾を回すたび、わずかに沈む方向が変わる。
重心が勝手に変わる金属など、聞いたことがない。
明日は、約束した引き渡し日だ。
「ジュークさん、いらっしゃい。ちょっと、見てもらえますか?」
ブリッツは静かに近づく。
エイブは弾を指で軽く弾いた。
カン・・コッ・・・カン。
金属が‘不自然なリズム’で返事をする。
「ほら、聞こえます? 音が揃わないんですよ。6発とも同じ素材なのに、まるで互いに引かれてるみたいで・・・。」
ブリッツの目が、いっそう鋭くなる。
「引かれる、だと?」
「ええ。手に持つと、もっと分かるんですが。これ、弾が‘互いに寄ろうとしてる’感じがあるんですよ。ほら、こうやって寄せると・・・。」
エイブが弾丸を2つ、指で近づけた。
軽い音がした。吸い付くように、弾丸同士が位置を変える。
「ほらね。磁石じゃない、普通の金属ですよ。絶対に起きないことです。」
ブリッツは銃弾を受け取った。
手のひらの中で、じんわりとした‘沈み’の感覚がある。
重いというより、重心が動きたがっているような不思議な感触。
「共鳴か。」
「きょうめい?」
「気にするな。」
ブリッツは短く返し、6発を弾倉に込めてみる。
「6発装填すると、銃そのものが落ち着かねえんですよ。狙いがつきますかね?まさに‘厄介モン’です。」
ブリッツは、キャサリンと砂原で体感した違和感を思い出している。
砂に吸い込まれるような、平坦であるにも関わらず、
地面を下るような平衡感覚の揺らぎ。
空気が引かれていくような、あの‘不自然な方向性’。あの時と同じだ。
厄介モンの小さな粒を内包するだけで、銃弾がベクトルを持つのか。
量が増えれば、影響はより強くなるに違いない。
もっと多ければ、異なる世界の裂け目へ繋がるのか。
エイブが不安げに問う。
「ジュークさん、これ、銃に6発全部装填したままだと、危ないんじゃないですかね?」
ブリッツは答えない。だが、弾を抜くと、いくつかのポケットに分けて入れる。
手つきは静かで、慎重だった。
「エイブ、試作を続けてくれ。まだ分かっていないことが多すぎる。」
技術屋はうなずき、金床へ向き直る。
その背中をよそに、ブリッツはポケットの重みを感じていた。
ただの弾丸ではない。
危険な道具が、いま確かにブリッツの手に渡ったのだ。




