059●命より高いもの
砂嵐が遠くでうねり、赤茶けた空気が視界を曇らせる。
エイブの馬車が、乾いた砂を巻き上げながら廃墟のコロニーへ向かう。
馬の蹄が砂を叩き、鉄製の車輪が錆びた軋む音を響かせる。
荷台には、仕上げた銃弾とメンテナンスを終えた拳銃が収まっている。
遠景には、ひん曲がった鉄骨が大地から突き出し、
崩れたドームが影を落としていた。
その下には、過去文明の亡骸。
銅線、鉛板、弾薬の破片が砂に埋もれて眠っている。
崩れた戦車の巨大な砲塔は墓標のように砂に埋まり、
折れた銃身には風が吹きつけ、赤い錆が薄く剥がれ落ちていく。
何世代も前の戦争の亡霊が、まだこの地に息づいている。
コロニーの入口には、武装した男たちが立っていた。
布と革を継ぎ合わせた粗末な衣服。腰には古びたリボルバー。
エイブは馬車を止め、ゴーグルを外し、
鈍く光る義手の指先で、リズムを刻むように手綱を軽く叩く。
「定期便を持って来た。銅と鉛、それに火薬が少し欲しい。」
低く乾いた声音が、砂嵐の唸りに溶ける。
門番の男が唇を歪める。その目に、打算と殺意が混ざっている。
取引の場は、崩れたドームの影。
男たちが積み荷を運ぶ音が、乾いた空気に響く。
エイブは地下から引き出された銅線の塊を見る。
「これで足りるか?」
その言葉が、崩れたコロニーに響く。
砂嵐が遠くで唸りを上げ地平線を染めた。
この世界の価値は、鉄と火薬で決まる。
それが尽きた場合は殴り合いだ。
「まあな。ここじゃ、信頼できる銃弾は命より高ぇからな。」
エイブは笑って応えた。しかし、眼光は鋭いままだった。




