021●旅は道連れ
新三郎は、さらに数日を無幻斎のもとで過ごした。
剣を握ることはなかった。ただ、思案を重ね、マナの言葉を胸に刻んだ。
ー己を整えること。それが、何より大切。
彼は藩に戻る決意を固めた。
新三郎には、三つの目的があった。
一つは、検分役の遺髪を持ち帰ること。遺族に事の顛末を伝えねばならぬ。
二つは、無幻斎を討つ必要性への疑問を解くこと。
藩命は「藩の意思に逆らう者を誅せよ」とだけ告げた。
だが、藩の意思とは何なのか・・・その根を知りたい。
三つは、その上で己の身をどうするかの指示を受けること。
二つめの問いをする以上、
上意下達という作法に触れ、厳しい沙汰を受ける覚悟が要る。
出立の朝、山の空気は澄み、草葉に露が光っていた。
新三郎は無幻斎と巫女たちに礼を述べ、下僕を伴って九龍山を下りる。
街道に出たところで、思わぬ人物が待っていた。
「マナ殿・・・。どうされた、このようなところで。また、その姿は。」
旅装に身を包んだマナが、微笑んでいた。
「ご城下まで新三郎様に同行せよ、と宗主、無幻斎からの命でございます。巫女姿では旅に不向きですから、装いを改めました。」
新三郎は慌てて言葉を探した。
「いや、身どもは藩命を受けての帰郷でござる。マナ殿にその必要は・・・」
「あら、私も宗主の命を受けて行くのです。同じではありませんか。」
その時、風が頬を撫でた。遠くで鳥が鳴く。
旅は、思いもよらぬ道連れを連れてくる。
—ちょっと、ちっとお!新三郎についてくの、マナ?
—いいなあ!わたしも行きたあ〜い!
—いやいや、そういうことじゃないだろ。命、係ってるんだよ、新三郎は。
—だから、マナが行くんじゃないの?マイロード、一気にカタつけるおつもりなんじゃない?
—カタつけるって・・・大事になるのかなあ?
—まっ、いいんじゃない。マナなんだから。
—ええい、みんなうるさ〜い!だまっててよお!マイロードがわたしに行けっておしゃてるんだからあ!
アークエンジェルズの声は新三郎には届かない。
彼は胸の中に甘い疼きを覚えながらも、歩みを進めた。




