022●リョウマに礼を
道中は、思いもかけず快適であった。
宿は九龍山高宮寺にゆかりのある神社仏閣の世話になる。
往路の木賃宿とは、雲泥の差だ。
湯に浸かり、夕餉を取る。膳には山菜と川魚、香ばしい味噌の匂いが漂う。
マナも当たり前のように同席し、互いに様々なことを語った。
幼少より男子ばかりの家系に育った新三郎には、新鮮なひと時であった。
三日目の夕刻、黒峯藩城下に到着する。
末寺に滞在すると告げるマナと別れた新三郎は、再会を望んでいる。
だが、それが果たせるか。確信はなかった。
明日は登城し、家老に会わねばならぬ。
城には既に、使者を出し概略を文で伝えてある。
兄をはじめ一族は、無事の帰還を祝してくれるだろう。
だが、何があったのかは、まだ話せない。
明日、生きて戻ることができるまでは、である。
その夜。
新三郎の、というより、彼が居候する兄の家に闇の影が忍び寄った。
十数名の得物を握った影が、屋内に入ろうとする。
首領らしき男が手で合図を送る。
だが、だれも動かなかった。
「こんばんは。よい星空ですね。」
声がした。
首領は目を見開く。薄闇の中、女がひとり立っている。
「お仲間さんたちは、しばらく動けませんよ。全員、拳銃型‘静雷’の矢を受けていますからね。」
首領は刀を抜いた。
だが、瞬く間に脱力し、昏倒する。
矢は音もなく、雷のような衝撃を神経に走らせたのだ。
「リョウマの工夫って、便利ね。今度、お礼言っとかなくちゃ。」
マナはそう呟き、倒れ伏す全員を亜空間に収容した。
星が静かに瞬いていた。




