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017⚫️だれにであてはまる

最悪の事態・・・自分が死に、検分役が藩に報告する。

それを覚悟していた。

だが、現実は逆だった。検分役が斃れ、自分が生き残る。

しかも、討つべき無幻斎は健在で、弔いまで整えている。

あまっさえ、生き残った自分の身を案じることさえ、しているのだ。


「入ってよろしいでしょうか?」

柔らかな声。承知の返答をすると、巫女のまとめ役のマナが静かに入ってきた。

「お食事をされないと、お体がもちません。どうか、一口なりと。」

気遣いが痛いほどわかる。だが、食欲はない。

検分役を責める気もない。勝負を遮られた不満もない。

ただ、藩士としての使命を果たせなかった悔恨が胸を締めつける。

無幻斎を斬る、それは、己の技量では不可能だと悟った。

では、切腹か。

だが、誰が帰藩して顛末を報告するのか。下僕では務まらぬ。


マナが小さな膳と、玻璃の杯を差し出した。

「せめて、これを。」

断れなかった。新三郎は杯を取り、口に含む。

「むっ、これは。」

驚くほど爽やかな酸味と旨味が広がり、森の香りが口から鼻に抜ける。

胃にじんわりと優しさが広がり、緊張の呪縛がゆっくりとほどけていく。


「マナ殿、これは何というものか。」

「初夏にあいますでしょう。こちらの地酒でございます。そして、この膳は遠き所で考えられた調え方を真似ております。野菜とキノコ、果実だけで仕立てたもの。弱った体や心に、よく効きます。」

障子の向こう、新緑がまぶしい。陽光が庭に降り注ぎ、草花が揺れている。


「かたじけない。礼の申し上げようがござらん。」

マナはたおやかに微笑んだ。

「お武家様は忠義を尽くされるものですね。でも、何を行うにも、まずご自身を整えることが大切ではありませんか。それは、どなたにも、あてはまることだと思います。」

その言葉が、静かに胸に染みた。

「そのとおりでござる。いや、己の心身を蔑ろにしては、道も見えぬ。自分を見失っていたようです。食事をいただいてもよろしいでしょうか。」

「もちろんです。お召し上がりください。」


風がまた、庭の緑を揺らしていた。


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