そりゃあんまりな愚痴
台風の影響で、一日中本降りの雨。
そんな中帰ってきた桂子の機嫌は、いつも以上に酷く悪かった。
「昭夫さん、私、今度こそもう頭にきたわ。リハビリなんて、もう金輪際やめる」
「桂子、ちょっと前まで『リハビリの先生は神様みたい』って感謝していただろ。一体全体どうしたんだ? 何かあったのか?」
「『何かあったの』じゃないわよ! 私はね、ずっと我慢してきたの。体の不調を治さなきゃいけないから、ずーっと耐えてきたのよ!」
あぁ、始まった。また桂子の被害妄想が暴走し、当事者を徹底的に叩き潰すための愚痴が始まるのだ。八つ当たりされるこちらの身にもなってほしい。
「いい? 結論から言うわね。リハビリなんて、精神障害者にとってはどこも敵よ。あっち側はね、私たちを診る気なんて最初からないの。調子のいいことを並べて、本音は追い払いたいだけ。いっそのこと病院の入り口に『精神病お断り』って貼り紙でもしたらどうなのよ!」
「こら、桂子。またそんな酷いことを言うんじゃない。ぜんぶお前の妄想じゃないか。いいか、そんな考えは今すぐ捨てろ。外で口が裂けても言うんじゃないぞ」
「昭夫さんはそう言うと思ったわよ。別に誰にも言わないわよ。でもリハビリはやめる。自分の体は自分で治すわ。もう他人に任せたりしない!」
そうなんだよな。一度始まった桂子の妄想は、誰にも止められないのだ。だが、まぁいい。今回やめるのがリハビリ程度で済んで、むしろ命拾いしたと思うべきかもしれない。
これが精神科や内科の主治医じゃなくて本当によかった。もしそこの医師を敵に回すようなことになったら、それこそ我が家は完全に行き詰まる。
桂子は、自分に向けられる周囲の『差別』に過敏すぎるのだ。
健常者から見れば、厄介で扱いづらく、できるなら距離を置きたい存在――その言い分も、俺にはよく分かる。
なにしろ、一番近くにいる家族の俺ですら、これほど疲弊しているのだから。他人様に避けられても、文句なんて言えた義理じゃない。




