桂子の暴走
梅雨真っ只中、台風の影響でこのところ大雨続きだ。
頻発する地震も含め、自然の脅威に晒される日々が、桂子の精神状態にも影を落としているのだろうか。
その日、桂子はまた突然、奇っ怪な行動に出た。
「昭夫さん。もし私の友人や知り合いから家に電話があっても、絶対に私に繋がないでください」
「桂子、それはまた一体どういうことだ? 友人知人って、具体的に誰のことだよ」
「昭夫さんも知っている人たちよ。ほんの数人よ。それ以外に友人なんていないわ」
「お前、その貴重な友人たちに、今度は何をしでかしたんだ?」
「メールも電話も、全部ブロックしたの。それだけのことよ」
あまりに淡々とした口調に、背筋が寒くなった。
「もし連絡があったらどうするんだ。失礼極まりないだろう。どうしてそんな極端なことをするんだよ」
「あの人たちが、どうして今まで私と付き合っていたか、ようやく分かったのよ。私は自分を守るために、彼女たちとの関係を断つの」
「守るって何からだよ。さんざんお世話になっておいて、そりゃないだろう」
「あの人たちは、私に張り付いて観察していただけ。いざとなったら、私を引きずり降ろすためにね」
桂子の目は本気だった。ゾッとした。
「桂子、お前……それは被害妄想だって。だいたいお前ごときを、誰がわざわざ引きずり降ろす必要があるんだよ。自分を過大評価しすぎじゃないか?」
「昭夫さん、前にも言ったでしょ? 出る杭は打たれるって。みんな、私の才能に嫉妬しているのよ」
「桂子、悪いがそれは冗談としても笑えない。お前にどんな才能があるって言うんだ」
俺の問いに、桂子は少し視線を泳がせて考えていたが、結局答えられないようだった。
かかりつけの主治医に相談すべきだろうか。だが、こんな突飛な戯言に先生を付き合わせては申し訳ないという思いも過る。
「桂子、今すぐブロックを解除しなさい。そうしないと後で絶対に後悔するぞ」
……まぁ、そんな俺の必死の助言も、今の桂子には届くはずもなかった。
一難去ってまた一難。この先が思いやられる。
コールセンターの件で心身ともに限界を迎えている俺に、追い打ちをかけるような家庭内の不協和音。
この先また起こるであろう騒動に巻き込まれることに、俺は心底辟易していた。
厄介事はもうごめんだ。やれやれ、本当に台風のような女だな。
俺はソファに深く体を沈め、ただ天井を見上げることしかできなかった。疲れ果てていた。




