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やってあげましたよはNG

このところ比較的に平穏な日々を送っていた我々夫婦が、些細な事で言い合いをした。



それは、ある土曜日の昼食を終えた後のひととき。

桂子が部屋に入って来て言った。


「昭夫さん、お皿、洗っておいたわよ」



その一言に、俺の心の奥のスイッチがカチリと入った。無性に腹が立ち、即座に言葉を打ち返した。


「桂子、それがどうしたんだ? 俺に『洗ってくれてありがとう』とでも言わせたいのか?」


「昭夫さん、どうしたの? お皿を洗ったから、そう言っただけよ。そんなに怒るようなこと?」



「恩着せがましいんだよ。だいたい、たかが皿を洗ったくらいでいちいち報告が必要か? 私はこれだけのタスクをこなしました、とでもアピールしたいのか」


「何よ、それ。昭夫さんこそ、いちいち過剰反応しないでよ」



「皿を洗ったら洗ったで、黙っていればいいだろう。義務を果たしただけだ、誰だってそうしてるぞ」


「昭夫さん、何故? どうして黙っていなければいけないのかわからないわ。どっちでもいいじゃないの、そんなこと。報告しちゃいけないなんていうのこそ、あなたの価値観の押し付けよ」



「俺があの昼飯を作ったんだぞ。皿くらい洗って当然じゃないか! 俺は、毎日毎日、お前のエサを作っているんだぞ」


「エサって何よ。失礼ね、私も仕事に行っているわよ」



「お前は、俺が仕事もしないで遊んでいるとでも言うのか? 俺が一銭も稼いでないから、お前が養ってやってる、とでも言いたげだな!」


「はいはい、また昭夫さんのそれが始まったわね。昭夫さんの方が私よりずっと稼いでいる(・・・・・・・)わよね」



ああ、そうだ。そうだぞ、桂子。

俺はあのコールセンターでの、身に覚えのない言い掛かりによる失墜(・ ・ ・ ・)まで、確実に、着々と稼いでいたんだ。だから今、俺の年金とお前の僅かな収入で暮らせているんだ。お前は俺の貯金と言う名のおこぼれを吸って生きているんだ。


本当に解っているのか、桂子。お前は俺を、ただの無職の老人だと見下しているんだろう。


俺は胸の中で、いつもの呪詛をぶちまけていた。



「昭夫さん、私が言っているのはね、こうよ。恩に着せるとかではないわよ。私は単に、コミュニケーションの一環として声を掛けただけよ」



な、なんなんだ、この女は。まだ言い返してくるのか。


コミュニケーションの一環? まったく論点がズレていて話にならない。コールセンターなら即座にクレーム対象の、いちばんタチの悪い「論点ずらし」だ。



だから俺の日頃のストレスが溜まりに溜まるんだよ。


あぁ、何とかしてくれ。この、胸の奥からせり上がるどす黒いイライラ感を。





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