「私は頭の病気だもの」——嫉妬に狂う妻の稚拙な論理
桂子が転院してから、3回目の受診日は暴風を伴う大雨だった。
外の雨風の音を気にしながらも、俺は布団の中から桂子を見送った。
帰ってきた桂子は酷く機嫌が悪い。暴風雨でバスが遅れ、遅刻しそうになった事や、調剤薬局で“気持ち悪い”と言われたとか、まだ布団の中に居た俺に矢継ぎ早に愚痴った。
「昭夫さんはよかったわね。こんな日に布団でぬくぬくしていられたんだから。
私は、明日から仕事にだって行くのよ。」
「桂子、お前、俺が一銭も稼いでないって言うのか。俺はな、年金もらいながら毎日……」
「ほら、また始まった。毎日、買い物に行って、食事を作るのは大変なんでしょ。もう聞き飽きたわよ。
昭夫さん、時間に拘束されてないじゃない。こんな雨の日は、買い物に行くのはいくらでも遅らせられるのよね。」
桂子が俺を遮って叩きつけた言葉に、今日は猛烈に腹が立った。
「桂子、お前、出ていけ。ここは俺の家だ。」
「ちょっと待ってよ、昭夫さん。それ、離婚するってこと?
離婚は、絶対言わないんじゃなかったの?
それに、俺の家って、私はお家賃を半分払っているわよね。」
「俺の名義で借りてるんだ。俺がいなければお前はここに住めないぞ。」
「そんな、酷い……」
桂子は、すぐさま、ラインを打ち始めた。最近よくラインをし合っている、元同僚の女性に相談しているようだ。
「昭夫さん、美香さんから家電にかかってくるから、出て、話してくれる?」
ほどなく、電話が鳴った。受話器を取ると、桂子よりも大人で知的な女性の声に、俺は不思議と聞き耳を立てた。話していてとても心地よい。久しぶりに、話の通じる相手とお喋りできるのが嬉しかった。桂子がひっそりと様子をうかがっている。
電話で18分も話した。おかげで鬱憤晴らしができて気分がよかった。
「昭夫さん、美香さんは、ご主人がいるのよ。」
「お前は小学生か!」
「なんだかとっても楽しそうだったじゃない。
美香さんともっと話したいでしょう。」
「そうだな。話の解る人だったよ。」
桂子は、ラインを読んでいるが、どういうわけか、たった今、電話で18分話しただけの相手と俺の仲を怪しんでいる様子だ。やれやれ。。
「昭夫さん、私と喋るより、美香さんの方がいいんでしょ?美香さんのご主人から美香さんを譲ってもらえば?それなら、私との離婚には、慰藉料をたんまりいただくわよ。」
「お前、頭がどうかしているな。」
「そうよ。私は頭の病気だもの。」
桂子という女は一体、頭の中がどうできているんだ?そっちの方が遥かに怪しい。。




