二度寝の夢と、覚醒後の現実
俺は再び眠りに落ち、微睡の中で、あの「地獄の午後」に引き戻されていた。
職場の休憩室。隣の席だった派遣社員の梶川さんが、震える声でリーダーに訴えていた。
「杉村さんに、ずっと、卑猥な目で見られていたんです。怖くて……」
身に覚えのない言葉。俺はただ、操作手順に詰まっている彼女を心配して視線を送っただけだった。だが、リーダーの冷ややかな目が、周囲の同僚たちの「やっぱりか」という軽蔑を含んだ視線が、俺の言葉をすべて「加害者の言い逃れ」として塗りつぶしていった。
『杉村さん、潔白を証明できないなら、穏便に自己都合で身を引くのがお互いのためですよ』
派遣会社の担当者の、あの事務的な声が耳の奥でリフレインする。誰も俺を信じなかった。俺という人間が、長年積み上げてきた誠実さが、一瞬にしてゴミ箱に捨てられた瞬間だった。
「……違う。俺は、そんなことは……」
うなされて目が覚めた。額には嫌な汗がにじんでいる。
時計を見ると、桂子が出ていってからまだ一時間も経っていない。
「……アライグマ、か」
俺は自嘲気味に呟いた。
外の世界では、俺は理由もなく「獣」として扱われ、社会から追放された。
なのに家の中では、本当の猛獣のように手が付けられなくなった桂子を、「生き物だから、最後まで責任を」なんて綺麗事を言って必死に飼いならそうとしている。
社会から「汚れ物」として捨てられた俺にとって、不安定な桂子を支えることだけが、唯一、自分が「善良な人間」であると証明できる最後の砦なのかもしれない。
だが、そんな綱渡りのような自尊心は、桂子の帰宅時の一言で、いとも容易く崩れ去ることを、俺はまだ認めたくなかった。




