アライグマを飼うように。
「昭夫さん、ごめんなさいね。私、いつも心配をかけてばかりね。」
翌朝、やけに早くから起きた桂子は、出かける支度をすると、ふとそんなことを呟いた。
まだ布団の中だった俺は、いつも出掛ける時はあまり機嫌のよくない桂子の、今日は殊勝な物言いに驚いて跳ね起きた。
「け、桂子。おはよう。これから出かけるのかい。お疲れさん、頑張っておいで。」
「昭夫さん、昨夜は遅くまで、私のために頑張って転院の資料作りをしてくれたのね。ありがとう。感謝してるわよ。」
俺は、桂子の機嫌がいい今、常日頃から言っておこうと思っていた話をしてみる。
「桂子、時間はまだ大丈夫かい?
ずっと前に見た動画でね、野生のアライグマを拾って飼っていたおばさんへのインタビューをやっていてね。アライグマっていうのは凶暴な生き物でね、そのおばさん、飼っていたアライグマに噛みつかれて腕を4針も縫ったらしいけど、インタビューで、『生き物ですからね。最後まで責任を持たないとね。』と言ってたんだよ。
俺は、その時、このおばさんをお手本にして桂子を見守るぞ、と誓ったんだよ。」
「まぁ、そのおばさん、ほんとうに立派な方ね。
だけど、昭夫さん、私が、アライグマみたいに凶暴だっていう事かしら?」
「やっぱりか。そうくるだろうとは思っていたよ。いや、つまり、俺が言いたいのはね、…」
「フフ、わかっているわよ。そうね。私、アライグマ並みに凶暴だものね。
いつも怖い思いをさせてごめんなさいね、昭夫さん。だからそんなに痩せちゃったのね。あぁ、可哀想な昭夫さん、涙が出そうだわ。
じゃあ、行ってきます。」
「あ、あぁ、行ってらっしゃい。」
今朝の桂子は、やけに機嫌がよくて、物わかりがよかったな。いい傾向だ。よし、幸先いいぞ。
俺は、また温もりの残る布団に潜り込んで再び夢の世界へ突入した。




