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ノートの余白に綴る「真実」

桂子が寝静まった深夜、俺はリビングの隅で一冊のノートを開く。

表紙には、以前の職場で配られた味気ないロゴが入っているが、中身は俺にとって、どんな小説よりも重い「現実」が詰まっていた。


最初は、俺の血糖値や食事内容を記録するためのノートだった。

だが、いつからかその余白には、桂子の不穏な言動が書き込まれるようになっている。


『3月〇日(水) 2週目の欠勤。』

『原因:「みんなが辞めてほしそうな顔をしている」という訴え。具体的根拠なし。』


俺はペンを走らせる。

「妄想だ」と面と向かって言えば、彼女は傷つき、さらに殻に閉じこもる。だから俺は、その言葉を飲み込み、代わりにこの紙の上に吐き出すしかないのだ。


『本人の自覚:自分を責める傾向が強い。「死を待つ」との発言あり。』

『食欲:波がある。俺への気遣いは見られるが、自分自身への執着が薄いように感じる。』



4月3日の転院。

新しい医師に、この数ヶ月の「綱渡り」をどう伝えればいいだろうか。

口頭では、どうしても感情が混じってしまう。俺の焦りや、彼女への苛立ちが混ざれば、正確な診断を妨げてしまうかもしれない。


俺はPCを立ち上げ、これまでの記録を文章入力し始めた。

箇条書きで、できるだけ淡々と。感情を削ぎ落とした文字の列を見つめていると、胸の奥がチリチリと痛む。


「……これを書かなきゃいけないのが、一番しんどいよな」


独り言が、暗いキッチンに吸い込まれていった。

糖尿病の食事制限で、少し物足りない腹の虫が鳴る。



本当なら、もっと明るい将来の展望を書きたい。

どこへ旅行に行きたいとか、どんな老後を過ごしたいとか。


だが、今の俺にできるのは、4月3日の診察室で、この紙を震える手で差し出す準備だけだ。

それが、俺なりの「愛し方」なのだと、自分に言い聞かせながら。








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