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静かな食卓と、妻の精一杯

夕食の献立は、肉じゃがと焼き魚だった。

本当は仕事で打ちのめされた俺が作るべきだったが、リビングで呆然としていた俺を見かねたのか、桂子が台所に立ってくれたのだ。


14時に仕事を終えて帰宅した彼女が、それから夕飯までの間に用意してくれたものだ。肉じゃがといっても、時間はそれほどかかっていないだろう。だが、今の俺にはその「作ってくれた」という事実が、何よりも身に染みた。



「……いただきます」

俺はいつものように、計量した150gの玄米ごはんを口に運ぶ。

糖尿病を患ってからというもの、この「少なめの茶碗」が俺の日常だ。


桂子が作った肉じゃがは、俺が作るものより少しだけ砂糖が多めで、甘かった。

「昭夫さん、お味はどう……? カロリー、大丈夫かしら。お砂糖、控えめにしたつもりなんだけど」


桂子が不安そうにこちらを覗き込む。彼女なりに、俺の体を気遣ってくれているのが伝わってくる。

「ああ、美味しいよ。……ありがとう。このくらいなら大丈夫だ、調整できるから」


俺がそう答えると、桂子はホッとしたように自分の小さなおかずに箸を伸ばした。

テレビからは、どこかの街の桜が満開だというニュースが流れている。



「4月3日、新しい病院に行ったら、少しは楽になれるかな」

ふいに桂子が呟いた。その声には、彼女自身の「治りたい」という切実な希望と、正体の見えない不安が混ざり合っている。


「ああ。きっと今度こそ、いい先生に会えるさ。それまでは、無理しなくていいから」

俺は、自分に言い聞かせるように答えた。



市川の夜景を背に、二人で静かに咀嚼を繰り返す。

この穏やかな食卓こそが、守るべき「綱」なのだと、甘い肉じゃがを噛み締めながら俺は思っていた。




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