叫べ「愛している」と!
関東でソメイヨシノが開花した。春爛漫のある日、桂子がまたしても、二人の間で禁句とした“離婚”を持ち出した。
その日、新しい仕事から帰って来た時、「ただいま」を言わず機嫌が悪かった桂子に何やらまた言い出すのではという予兆は感じていたが。
恐る恐る話しかけてみる。
「桂子、お帰り。新しい仕事は順調か?今日は何をしてきたんだ?
そうそう、玄関のドアの内側に塗装が剥げているところがあるだろう。修繕を頼もうと思う。東成不動産に電話してみるよ。」
「昭夫さん、そんな事はもう私には関係ないわ。住む所が見つかったら出て行くわ。」
やっぱりだ。
「桂子、それはどういう事だ。二人のこれからの話をしているんだぞ。まさかまた別れるとか言うんじゃないよな?」
「別れるつもりよ。もうこうなったら、シェアハウスでもどこでもいいわよ。
昭夫さん、聞いてくれる?今日、私は仕事の途中で具合が悪くなったの。本当に具合が悪くなったのよ。だから、早退させてもらったのよ。
だけど、早くここに帰ってきたら、あなたの仕事の邪魔になるじゃない?
あなた、機嫌が悪くなるじゃない?『お前、また早退したのか?また仕事辞めるのか?』って。私はここのお家賃半分払っているのに、ここにあんまり居てはいけないなんて、考えてみたらあんまりな話よね。具合が悪いから早く帰って来たかったけど、終業の時間まで喫茶店で時間をつぶして余計に具合が悪くなっちゃったわよ。もう、こんな生活耐えられないわ。」
「お前、具合が悪ければ帰って来ればいいじゃないか。ここはお前の家だろう?」
「嘘よ。なるべく私とは距離を置きたいくせに。
私、4月に転院したら、真っ先に、自分の本当の病名を確認するつもりよ。妄想でなく、すべて事実なのかもしれない。
昭夫さん、本当は、あなたも一枚かんでいるの?
どうして私と別れないの?」
また、わけのわからない事を言い出した。
こうなったらもう破れかぶれだ。
「愛しているからだよ!」
俺は、渾身の力を振り絞っていつもは言えない言葉を叫んだ。
・・・すると、なんとまぁ、目の前の桂子が嬉しそうにしている。目がハートマークだ。
「昭夫さんがそんなこと言ってくれるなんて箱根の新婚旅行の時以来よね?
昭夫さん、これから毎日言ってくれたらいいのに」
またこれで一件落着。まったく手のかかる…
桂子の新しい仕事もとりあえず1週間続いてよかった。あとどのくらい持つのやらだが、まずは1ヶ月続いてくれよ。




