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夜明けのデバッグ

破片を片付けた後、俺は再びデスクに戻った。

リビングの気配は消え、深夜の静寂が戻る。時計の針は午前2時を回っていた。


「……逃げるわけにはいかないんだ」


俺は深呼吸をし、乱れた呼吸を整えた。


まずは営業から送られてきた散らかったコードを、SE時代のやり方で構造化し直す。最新のフレームワークがなんだ。根本にあるロジックは変わらないはずだ。

一文字ずつ、丁寧に、だが確実にキーを叩く。


エラーログを追い、変数の挙動を一つずつ潰していく。あのコールセンターで奪われたのは自信だったが、培ってきた技術まで消えたわけじゃない。


『……よし、通った』


画面上のコンソールに、エラーのない真っ白なログが流れた瞬間、肺に溜まっていた熱い空気が一気に抜けた。ブラウザで確認すると、海外仕様の決済画面が、意図した通りに完璧な挙動を見せている。


ふと窓の外を見ると、空が白み始めていた。

リビングからは、まだ微かな寝息が聞こえる。



俺は納品完了のメールを営業に送り、ようやくパソコンを閉じた。


「まだ……戦えるな」


独りごちた声は、自分自身への確認だった。


指先はまだ少し震えている。だが、これは恐怖の震えではない。久しぶりに「成し遂げた」感覚からくる武者震いだ。

 


朝食の準備を始めた桂子が、昨夜の騒動など忘れたかのように、明るい声で「おはよー!」と起きてきた。

「昭夫さん、見て! 朝からサラダほうれん草のオムレツ作ったわよ。すごいでしょ?」


彼女の衝動性は相変わらずだが、俺が仕事を完遂できたことで、ほんの少しだけ心に隙間ができた気がした。


「ああ。美味しそうじゃないか。……ありがとう」


俺の言葉に、桂子が意外そうに、そして嬉しそうに目を細める。


4月3日の転院まで、あと少し。

この小さな成功を足場にして、俺たちは次のステージへ進むしかない。





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