第61話 表裏一体 1
「喰らえ!」
「やぁっ!」
光と闇の激しい攻防が繰り広げられる。闇の糸と閃光が衝突すると、わずかに閃光が上回るものの、リグに届くころには服に若干焦げ目がつく程度の威力にしかならなかった。
「上位精霊のデューラでも届かないなんて……」
『結界の影響がここまで響くとは……実に忌々しい』
(真っ向から打ち合いでは、さすがに不利か……ならば―――)
リグは闇の魔力弾を放ちつつ、柱などの影を媒介に死角からの攻撃を織り交ぜる。わずかでも隙を作る算段だったが、ノーマは攻撃を察知して躱し続けた。
「なんだとっ!? 」
(こいつ……全身に目玉でも付いてるのか?完全に死角から攻撃しているのに見もせずに―――)
「くっ……、ならば―――!」
「!?」
リグはノーマの足元に闇の糸を張り巡らせ、蜘蛛の巣状の闇の捕縛網を敷き、ノーマの動きを封じようとした。しかし―――
『くだらない小細工を―――、ハァッ!!』
デューラの光の前に、捕縛網は一瞬で消え去った。
「ありがとう。デューラ」
『力を抑えられているとはいえ、あのような者に遅れなど取りません』
「ここまでやるとは……完全に誤算だ。サミュエル、あの役立たずめ!だったら……これならどうだ!」
「!? な、なにを……」
リグは正面からの打ち合いを避け、闇の糸を柱に伸ばし、ワイヤーアクションのような軌道でノーマたちを翻弄する。動き回ることで狙いが定まりにくくなり、上からの一方的な攻撃に、ノーマは苦戦を強いられる。
「糸にはこういう使い方もある……どこまで持つかな?」
『主様、これでは狙いが……』
「わかってる。……デューラ、あの糸って切れない?」
『こう動き回られては……仮に届いても威力が落ちてしまうので、切断までできるかどうか……』
(動きを読もうにも闇の糸はこの結界の中じゃ見え辛い……だったら!)
「……デューラ!」
『……承知!』
ノーマは両手に光の魔力を集中させる。リグは嫌な予感を感じ、猛攻を仕掛けた。
「なにをする気か知らんが、やらせるかっ!!」
リグは縦横無尽に動き回りながら闇の魔力弾でノーマを追い詰める。しかし、何発か直撃させるものの決定打にはならず、ノーマの魔力集中を妨害できなかった。ノーマは片方の光球を自身の頭上に放ち、リグは攻撃を予想して、魔力の盾を準備する。
しかし、光球はその場で弾け、強烈な光を放つ。元々闇の結界の影響で周りが暗かったこともあり、突然の閃光にリグの視界は奪われ、柱に飛び移るタイミングを見失い、柱に激突した。
「がはっ!!? くっ、くそっ!!目が―――」
『主様、今です!』
「うん!」
柱に激突したダメージと、視力が回復していない隙を付き、ノーマはもう片方に控えていた閃光を解き放って追撃する。ドグモスの視力も回復していなかったため防御が遅れ、リグは閃光の直撃を受けた。
「ぐぉおおおーーーっ!!?」
光による熱がリグを苦しめ、浄化の力がドグモスにダメージを与える。
『このまま畳み掛けましょう』
「……デューラ」
『……承知しております、主様』
ダメージの影響で下に落ちたリグに、ノーマたちはさらなる追撃を加える。ドグモスも防御に回るが、魔力を徐々に削られていった。このまま結界を維持できなくなるほど魔力を消耗させ、降伏させることがノーマの狙いだった。
しかし、そんな甘い考えが通じないのが実戦というものである。
「舐めるなよ、小娘がーーーっ!!」
リグは闇の魔力で形成した大量の小蜘蛛を召喚する。小蜘蛛は閃光により多少数を減らすものの、ノーマを飲み込まんとする勢いで襲い掛かる。田舎育ちで虫は多少平気なノーマでも、大量の蜘蛛に群がられるとなると生理的な嫌悪感は拭えず戦慄した。
「ひ、ひっ……デュ、デューラ!」
『主様、魔力をかなり消費しますが、ここは一気に行きましょう』
集中した光の魔力が光輪と化し、ノコギリのように回転。小蜘蛛の群れを次々と切り裂き、遂にはリグにまで届いた。
「ぐ……ぉ……おおおお……!」
何とか魔力の盾で防ぐものの、光輪は魔力の盾を削り、耐久力を奪う。それでも何とか弾くことに成功し、次の手を考えようとしたそのとき―――もう一つの光輪がリグに襲い掛かった。
「は、波状攻撃だとっ!? ぐっ、ぐわぁあああーーーっ!!」
魔力の盾を再展開する隙などなく、消耗しきった盾では防げない。光輪がリグを切り裂き、ノーマはトドメの一撃を見舞おうとリグに接近していた。
「これで……決めます!」
(……仕方ない。出し惜しみをすれば、こちらがやられる!)
ノーマのトドメの一撃を前に、リグは闇の霧を発生させる。いきなり視界を奪われたことに怯むノーマだったが、デューラによって闇の霧は浄化され、瞬く間に消失。光の魔力弾がリグに打ち込まれた。しかし―――
「……えっ?」
「もらった!!」
「しまっ―――!?」
魔力弾はリグの身体をすり抜け霧散し、リグはノーマの背後を取った。そして、腕を覆うほど巨大な闇の蜘蛛を形成し、蜘蛛の牙がノーマの首筋に突き立てられた。
リグは闇の霧で視界を奪った一瞬、闇の魔力で自分自身の分身を作り、影を伝ってノーマの背後を取った。本来、ドグモスのような中位精霊ではここまでのことは不可能だが、結界内で力が高まっている今だからこそできる芸当だった。
突き立てられた牙は光の精霊術で守られているノーマに直接接触することはなかったが、リグの表情は穏やかだった。
「……? なんとも、ない?」
「……認めてやろう。貴様は強い。ここまで追いつめられるとは思わなかった」
『戯言を……主様、トドメを!』
「……もう遅い」
「!? こ、これは……!」
突如、牙が突き立てられた場所から闇がノーマを覆いつくすように黒く浸食していく。そして、それはデューラにも波及した。
「な、なに、これ……」
『わたしの身体も……?ええい、この程度―――なにっ!?』
デューラは闇を祓おうと光の力を強める。しかし、闇はそれに反応し、まるでそれを求めるかのように光を飲み込んでいく。
「精霊術師と精霊は契約で繋がっている。影響を受けるのは必然だ」
『馬鹿な……なぜ、祓えない……?』
「無駄だ。それは光を喰らう闇の精霊術だ。その闇が全身を包むとき、肉体は影のように闇に溶け、消える……いかに光の上位精霊といえど、この結界の中なら貴様をも飲み込めるだろう」
『光を喰らうだと……?闇が、わたしたち光の精霊に敵うはずなど……』
「確かに闇は光に弱い……だが、光が強くなれば影が濃くなるように、本来光と闇は表裏一体、そこに優劣などありはしない」
「ち、力が……抜けていく……」
『あ、主様……くっ、おのれ……』
闇がノーマとデューラの身体が瞬く間に全身を侵食していく、何とか抗うも時すでに遅く……
「こちらの切り札を使わせたことを、あの世で誇るがいい」
「あっ、ぐ、あああぁぁあぁーーーっ!!……ぁっ……」
『うっ、うわぁぁーーーーっ!!……ぅっ……』
ノーマとデューラは漆黒に染まり、力なく倒れ込んだ。
お疲れ様でした。
タイトルの使いまわしをお許しください……




