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第60話 騎士団長の乱心 3


「ば、馬鹿な―――ぐっ、ぐわぁあああーーーッ!!?」


 剣を伝い、闇の魔力がガランの全身を流れる。体内への攻撃はさすがのガランも耐えられず、膝から崩れ落ちた。その様子を見て、リグは高笑いを始めた。


「くっ、くくっ……はーっはっはっはっ!!まんまと引っ掛かったな!」

「うっ……ぐっ……な、ぜだ……」

「おっと、まだ息があったか。呆れた頑丈さだな。……いいだろう、知りたいなら教えてやる」


 リグはサミュエルを引き寄せて背中を見せると、そこにはドグモスがいた。

 最初からサミュエルを操っていたのはドグモスだった。背中を軽く叩いた際ドグモスがサミュエルの背中に取り付いて操ったのと同時に、リグに糸を伸ばし、リグは指を適当に動かしてサミュエルを操っているフリをしていたのだ。ドグモスが離れることでリグは闇の精霊術が使えなくなるが、油断を誘うには絶大な効力を発揮した。


「お、おのれ……ぐっ!!」

「さようなら、ガラン。お前をここで消せるのは、何よりの幸運だ」


 闇の霧がガランを包む。ガランは呼吸をするたびに闇の霧が身体に入り込み身体を蝕んでいく。何とか奮起し立ち上がろうとするガランだったが、身体から力が抜けていき、意識が遠ざかっていった。


(覚悟は、していたつもりだったが……もっと、早く、後継者を育てるべきだった……ウォルター……ジャイブ……皆……陛、下……もうし、わけ……)


 賊に敗れたこと悔いながら、ガランは息を引き取った。リグが胸を撫で下ろしていたところ、サミュエルが恨めしそうに声を掛ける。


「リグ……貴様。よくもわたしにこんな……しかも、このわたしの手を、手を……」


 サミュエルは動揺していた。モッコクを手にするため、障害となり得るガランの排除に異論はないが、自身の手を汚すことはしたくなかった。人に剣を突き立てた感触が手に残り、恐怖と罪悪感で手の震えが止まらなかった。

 そんなサミュエルに、リグは囁くように声を掛ける。


「……いいか宰相殿、これは必要なことなんだ。ただガランを殺害したのではこちらの動きがバレてしまう可能性がある。「宰相に剣を向けた罪」という理由が必要なんだ」

「し、しかし……」

「あなたはモッコク王国次期国王だ。そんなにあなたにガランは剣を向けた。そんな無礼者を裁いただけだ。そうだろう?」

「……そ、そう、だな……そうだ、その通りだ。わたしに剣を向けたこいつが悪いのだ!はは、ははは、ははははははっ!」


 闇の魔力を込めた囁き、これは一種の精神操作である。一見便利そうではあるが、相手の精神が安定していると掛かりにくい傾向にあり、精霊の位が低いとその成功率はさらに下がる。今回の様に、痛みや恐怖心に駆られて精神が不安定なサミュエルには効果的だった。

 ガランを倒せたことは喜ばしいが、リグの表情は硬かった。


(ガラン一人でこれほどとは……対策を強化する必要があるな)



 時は戻り、真相を知ったウォルターは驚愕していた。


「後は貴様らの知っての通りだ」

「ならば、ならば……団長はあのときすでに……!」

「ああ、苦労したぞ。傷を鎧で隠し、遠隔で操作するのはな」

「……それが本当なら、なぜ光の精霊術師は何も反応しなかったんだ?」

「簡単な話だ。あれはこちらで用意した精霊術師だったんだよ」

「グルだったというのか……」

「それにしても、あのときは傑作だったな。死んでいるとも知らず騎士たちがわーわーと……まるで人形劇に夢中になる子どもでも見ているかのようで……滑稽極まりなかったわっ!!」

「貴様……貴様ーーーッ!!」

「……そうだ。いいことを思い付いた」


 リグは闇の糸をウォルターに伸ばす。リグはウォルターを操り、立ち上らせ、剣を持たせて歩き始めた。


「くっ……き、貴様、なにをっ!?」

「なに、ちょっとした余興だ」


 ウォルターの意思に反し、一歩、また一歩と倒れているラミーの方へ歩みを進める。リグの考えを察したウォルターは青ざめた。


「おい、ま、まさか……」

「そのまさかだ。光の精霊術は厄介だからな。それも団長ともなれば我々にとって邪魔でしかない。それに……」

「ふ、ふざけるな!やめろ!」

「仲間の首を刎ねたとき、お前はどんな顔をするのだろうな?」


 リグは下卑た笑みを浮かべながらウォルターを操る。なんとか抵抗を試みるウォルターだったが、体力も魔力も尽きている状態では碌に抵抗できず、ついにラミーの元に辿り着いてしまった。


「う、ウォルター……様……」

「ラミー殿、頼む!逃げてくれ!このままでは……」

「申し訳……ございません。身体が、動かなくて……せめて……」


 ラミーは闇の糸を解除ようと光の精霊術でウォルターを救おうとしたが、結界の力で強化された闇の糸は消えなかった。


「無駄な抵抗は終わりだ。……さぁ、絶望の表情を見せてくれ!」

「やめろ、頼む……やめてくれーーーーっ!!!」


 剣を振りかぶりラミーに振り下ろされようとした瞬間、眩い閃光がリグを襲う。


「なっ、なんだ、この光は!?……ドグモス!!」


 ドグモスは蜘蛛の巣状の盾を展開し防御する。しかし、結界の力で強化されているはずの盾は粉々に砕かれ、リグ諸共吹き飛ばされた。


「な、なにっ!? うわぁあああーーーっ!!?」


 闇の糸が効力を失って消滅し、ウォルターは文字通り糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「……やりすぎたかな?」

『手応えはありましたが、仕留めてはいないかと……』


 この閃光の正体はデューラだった。サミュエルがここに来るまでの間に作戦を立て、エメスはノーマを伏兵として忍ばせていた。もっとも、作戦ではもっと早い段階で仕掛ける予定だったが、結界での弱体化が響き、今の今まで力を蓄えていた。


『忌々しい結界のせいとはいえ、申し訳ございません』

「ううん、まずは……大丈夫ですか!!?」

「こっちは……いい……先に、エメス殿を……!」

「! ……はい!」


 ノーマは戦いで傷付いたウォルターに駆け寄ろうとしたが、ウォルターは自身が戦力にならないことを自覚し、エメスの救出を優先させた。

エメスを救出し、アレクを守る役割を自分が引き受ければ状況が変わると判断したノーマは、閃光で闇の精霊術師たちに攻撃を仕掛ける。しかし、突如三角網状の障壁に阻まれ、それは叶わなかった。


「ぬかったわ……」

「!?」

「光の上位精霊を操るエメスさえ抑えれば、脅威となるのは騎士団長のウォルターや精霊術師師団団長のラミーぐらいだと思っていたが……まさか光の上位精霊がもう一体、しかもこんなガキが……」

「あの攻撃で立ち上がれるなんて……」

「ノーマ・ムビオス……だったか?天才と言われたエメスの弟子。まさか光の精霊とまで契約しているとは思わなかったぞ」

(どうしよう……師匠を早く助けないといけないのに……)


 ノーマは上位精霊の閃光を受けてなお立ち上がるリグは、かなりの実力者であることは理解した。勝機があるとすればエメスの救出を優先したかったが、この状況でエメスを頼ろうとしても、戦いながらエメスを救出しなければならず、それは困難だった。

 迷うノーマに対し、エメスはある決断をする。


「……ノーマ!!」

「!? 師匠……」

「戦え!今戦えるのはお前しかいないんだ!!」

「ふぇっ!? で、でも……」

「大丈夫だ。お前なら勝てる!……信じてるぞ!」

「……はい!」

「舐められたものだ……だが、光の上位精霊の存在は捨て置けないのも事実。何より六体の精霊を操るその才能の芽、今摘み取らねば厄介だ……今ここで潰させてもらおう」

「行くよ、デューラ!わたしたちで止めよう!!」

『邪悪なる闇よ!我が光で浄化してくれる!!』


 かくして、リグとノーマの戦いが始まる。


 お疲れ様でした。


 戦闘描写をなるべく伝えようと思うと文量が多くなってしまいますね……


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