第54話 正体 1
エメスたちは急いで城へと向かい、カルロスの元へ走る。
すると、カルロスの自室の前で、リリアンが泣いていた。
「リリ様!?」
「姉様……お兄様が……お兄様……が……うわーーーん!!」
「ノーマ、お前はリリアン殿下と一緒にいろ。わたしが呼ぶまで待機だ」
「……わかりました」
リリアンはずっと泣いていた。ハーティスが不在で寂しい思いをしていたことに加え、カルロスが倒れたことで心の拠り所を失いパニックを起こしてしまっていた。ノーマが寄り添い、慰めたおかげで少しだけ落ち着きを取り戻したリリアンは、これまでのことを少しずつ話し始めた。
カルロスは以前から体調不良を感じてはいたものの、そのときは症状が軽かったこともあり、薬を飲んで休息を取ることで様子を見ていた。しかし、改善されるどころか徐々に症状は悪化し、ついには動けなくなるほどになっていた。
医師の診断により、原因は毒であることが判明。ほぼ同時期に毒見役の人間にも同じ症状が現れていることから、食事に何か毒物を入れられたと見て間違いはない。だが、解毒剤を服用させても治る兆しが見えず、治癒術師たちによる解毒を行っても治るのは一時的で、すぐに悪化するという。
宰相は優秀な医師に心当たりがあるのか、交渉のために城を出て行った。だが、その医師が到着するまでカルロスが持つかはわからない。そこで、最後の頼みとしてエメスが呼ばれた。
「お兄様……死んじゃうの?」
「大丈夫です。師匠なら、きっと……」
しかし、そんなノーマの期待とは裏腹にエメスは苦戦を強いられていた。エメスでも手に負えない状況に、医師も治癒術師も戸惑いを隠せないでいた。
「どうなっている……解毒しても、すぐに毒が回っている」
「うぅ……」
「殿下、しっかり!……エメス様!」
(一体どうなっている……遅効性の毒がこれほどまでに強力だとでも言うのか?まるで、毒を注入され続けているような……)
「……! 解毒を代われるか?」
「は、はい!ですが、一体何を……?」
「殿下の身体を精霊術で徹底的に調べる」
「し、しかし、それは我々が一度……」
「信用していないわけじゃない。だが、上位精霊の力ならさらに深堀出来るかもしれないし、思い当たることもある……やらせてくれ」
「……かしこまりました」
イアープと集中してカルロスの体内を探る。すると―――
「……見つけた!が、しかし……」
「エメス様?」
「殿下の病がわかった」
「本当ですか!?」
「正確には病ではない。これは……寄生虫だ」
「寄生虫!!?」
エメスが見つけた寄生虫。数ある中でもヴェノムワームと呼ばれる生物兵器である。どちらかといえばアニサキスやサナダムシ等に近いのだが性質がミミズに酷似していることから名づけられた。土を食べたミミズの糞が土壌を豊かにするのに対し、ヴェノムワームは生物の肉を食い荒らし、その糞は有毒で体内で蓄積すると寄生主に悪影響を与える。
寄生主が死ねば、その死体に触れた者に感染し、広がっていくため猛威を振るった。かつては戦争で使用されたものの、敵国はおろか使用した自国まで滅ぼしかねない被害が出たため、危険生物として認定。使用はもちろん飼育なども禁止されており、各国でも条約が結ばれている。
なお、初め段階で発見できなかった理由として、精霊術による治療・解毒を行う際に大まかな対象を絞る必要があり、それ以外の情報は省かれてしまうためである。つまり、医師が毒と断定したので解毒を優先した結果、ヴェノムワームの存在が見逃されてしまっていた。
「そんなものが、なぜ……?」
(宰相が取引していたのは、これのことだったか。だが、宰相と共にいたとしても、検問は必ず受けるはず……一体どうやって……?)
「……エメス様?」
「……とにかく、今は殿下をお救いする。急いでヴェノムワームについての文献探せ!その間、水の精霊術で追い出せないか試してみる」
「はい!」
しばらくして、アレクが様子を見に来ていた。ヴェノムワームを追い出そうと水の精霊術による除去を試すものの、ヴェノムワームは抵抗し、状況の悪化を招く危険があったため断念した。そんな中、文献を探し当てた医師が戻ってくる。しかし、その表情は険しかった。
「カルロス……頑張るのだ」
「エメス様……文献が見つかりました。……陛下!?これは失礼いたしました」
「善い。続けよ」
「はい……ヴェノムワームはソルドラという薬草が有効という記述がありました」
「そうか。それで、その薬草は?」
「残念ですがソルドラの群生地は戦火に焼かれ、もう存在しません……この国にもソルドラの薬草はないのです」
「……他に、他に方法はないのか?」
「……このまま解毒を続けても、いずれ心臓や脳を喰い破られれば命は……」
「なんということだ……」
「外科手術で直接取り除くという選択もありますが……不可能でしょう」
「な、なぜだ!」
「……数が多すぎるんです。すでに繁殖していて何か所にも及んでいます。殿下の体力、出血量を考えても現実的じゃありません。今も脳や心臓などに致命的なダメージが入っていないのが奇跡なんです」
「なら、なら……どうすればいいのだ!?」
頭を抱え、アレクは嘆いた。しかし、誰も声を掛けられない。そんなとき、医師の言葉がエメスにある閃きをもたらした。
「医師として不甲斐ない限りです……わたしでは治療不可能だ……」
(治療不可能……不可能…………!)
「……もしかしたら……」
「エメス、どうした?」
「いえ、治療できる人物に心当たりが……」
「あるのか?!」
「ええ……陛下もご存じの者です」
「……まさか!?」
「はい……すまないが、誰かノーマ・ムビオスを呼んできてくれ」
「か、かしこまりました……」
エメスの指示通り、兵士に連れられてノーマが到着する。治療を治癒術師に任せ、少し離れた別室に移り、エメスはカルロスの容態、現在の状況、すべてを説明し、ノーマに問いかける。
「―――っと、言うわけだ。どうにかできないか?」
「……はい?」
突然呼び出されて無茶ぶりされた挙句、一国の王子の命運を握らされたとあっては、ノーマが間の抜けた声を上げるのも無理はなかった。
「そ、そんなこと、いきなり言われても……」
戸惑うノーマに代わり、エメスに応える声があった。
『エメス殿も意地が悪い』
「アミティス!? ダメだよ、ここでは……」
『ご安心を。そのための「ここ」なのでしょう?』
「……察しが良いな。闇の精霊術で寄生虫を駆除できないか?」
『可能ではあるが……現実的ではない』
「どういうことだ?」
『話を聞く限り、相当な数なのだろう?王子の身体に影響しないように一匹一匹に闇の精霊術を使っていては、こちらの集中力が持たない。それに、闇の精霊術は生物の生存本能を刺激してしまう』
「何が問題なんだ?」
『……主よ、以前に魚を生で食そうとしたときのことを覚えているか?』
「あー……あれね」
「なんだ、何があった?」
ノーマは以前、料理の本で異国では魚を生で提供する料理があるというの知った。しかし、魚の生食は寄生虫症のリスクがあり、腹痛や吐き気で長期間苦しみ、最悪の場合は命を落とす危険もあるため、基本的に厳禁とされている。ゲテモノと切り捨てるのは簡単だったが、闇の精霊術で寄生虫を追い出せば食することができるのではないかと思いつき、試したことがあった。だが、魚のありとあらゆるところから寄生虫が這い出てくる様相は吐き気を催すほど悍ましく、食欲が失せてしまった経験があった。
「今思い出しても気分が……」
『魚は死肉だから良いが。下手に生存本能を刺激して暴れられたら、臓器にも傷がつきかねない』
「……まいったな。どうにかならないのか……」
(寄生虫が暴れたら危険……暴れないようにするには……!)
「……もしかして…………」
「! 何か思い付いたのか?」
「はい。でも……」
「……ノーマ、今はお前の思い付きが頼りだ。協力するから言ってみろ」
「わかりました……師匠、協力してください!」
「ああ、わかった!」
ノーマが思い付いたことをエメスに説明する。
お疲れ様でした。
来週の水曜日は私用があるので、火曜日深夜頃に更新する予定です。




