第53話 厄除け(?) 2
その後、ノーマが帰る際、エメスに話を持ち掛けた。
「師匠、お話しがあります」
「どうした?」
「ここでは、ちょっと……誰にも聞かれないくらい上空まで飛べませんか?」
「? ……わかった」
フィルトが上空へと駆け上がり、ある高度で止まる。そこで、サミュエルが怪しい男と会っていたこと、計画の内容は不明だが最終段階にあることを話した。
「アーノルドは後で問い詰めるとして……他にこのことを知っているのは誰だ?」
「誰にも言っていません。計画内容を知った者を消そうとしている以上、迂闊の喋っては危険が及ぶ可能性があります。ですから、まずは師匠にだけ伝えようと思って……」
「そうか……いい判断だ。確かに、誰に話すかは選んだ方がいい。後はこっちの裁量に任せてくれ」
「はい」
「だが、事は一刻を争う。一度城に戻るとしよう」
フィルトが高度を下げる最中、エメスは気になったことを聞いた。
「……ところで、お前はなぜそんな場面に出くわしたんだ?訓練場に行ってアーノルドと城下町に行って別れて、道に迷ったのか?」
「それが……カルロス殿下からもらったブローチをカラスに盗られてしまって、追いかけてたら―――」
「……ちょっと待て、今なんて言った?」
「え?ブローチをカラスに……」
「そのブローチを誰にもらったって?」
「カルロス殿下です。……これです」
「……」
「……師匠?」
一瞬の沈黙が流れ、そして―――
「何やってんだお前はーーーっ!!」
「うぇっ!?……って、あーーーっ!ブローチがーーーっ!!」
エメスの怒鳴り声に驚いて、ノーマはブローチを落としてしまった。
しかし、エメスが怒鳴ったのにも理由があった。男性から女性への贈り物にはそれぞれ意味があり、ブローチには婚約指輪の代わりや愛の証などの意味合いがある。カルロスの自由意思により、未だ婚約には至っていないものの、トモイテ王国との政略結婚を進めたいアレクの意向を知っていたエメスにとって、その障害になり兼ねないノーマの迂闊な行動を咎めざるを得なかった。
だが、当のノーマはそこまで深い意味があるとは知らず、今はそれどころではなかった。
「ネフラ、せめてブローチの保護……えっ!?無理!?」
ネフラは首を横に振る。精霊術の射程範囲外である上に、今からではブローチに追いつけない。今は破損しないことを祈るしかなかった。
「どうしよう……壊れてないといいけど……」
「一体どういうことだ。なぜ、お前が殿下からブローチを―――」
「迷惑を掛けたお詫びにと渡されました。むしろ、こちらがお詫びしないといけないはずなのに……」
(殿下は何をお考えなのか……)
「とにかく、ブローチを探すの手伝ってください!失くしたなんて大問題です!」
「……わかった」
ブローチが落ちた大まかな位置から、あまり人が立ち入らない倉庫付近を中心を風の精霊術で探すことになった。
「……師匠、ありましたか?」
「……! どうやら木の中にあるようだ」
「さすが上位精霊ですね……どの木ですか?」
「あそこだな」
「じゃあ、早速……」
ノーマは茂みを掻き分け、木に近づいた。そのとき―――
「……痛っ!~~―――」
ノーマは茂みの中にある何かに足をぶつけて悶絶した。
「どうした。大丈夫か?」
「はい……大丈夫です。でも、一体何に……金属の杭?」
「なんだってこんなところに……」
「う~ん……とりあえず、戻しておきましょうか?」
「そうだな。何か意味があるのかもしれない」
少し傾いてしまった杭を元に戻し、土をならした。
「これでよし……それじゃあ、いってきます」
ノーマは枝を伝いながら木に登る。ボタン村では遊びで木に登ることなど日常的にやっていたため、精霊術を使うまでもない。風の精霊術でブローチを探しながら枝を掻き分けて進み、ついに発見した。幸い、ブローチは葉の多い枝に落ちたため、どこも破損していなかった。
「よかった~~……失くしたらどうしようかと思った」
「ノーマ、見つけたなら降りてこい」
「はい。よい……しょっと」
ノーマは手慣れた感覚で木を降りる。しかし、最後の足場として選んだ枝を踏んだ瞬間、予想外のことが起きた。
「へっ?き、きゃあっ!?……お゛ごぉ゛っ!?!?」
「ノーマ!?」
枝が突然下に下がり、ノーマはバランスを崩して地面に落ちてしまった。幸い、ネフラが間一髪で風の精霊術を発動させたおかげで大事には至らなかったものの、露出した木の根がお尻にぶつかり、ノーマはあまりの痛さに汚い悲鳴を上げて悶絶していた。
「~~~……――――!!」
「ノーマ、大丈……なんだ、これは……」
エメスは悶絶するノーマの安否を気遣おうとしたが、ある光景に目に留まり足を止める。岩壁の一部がまるで扉のように開き、その先には下に続く階段があった。
「なぜこんなところに隠し扉が?ノーマ、お前はここにいろ……っと、言っても動けないか」
「師匠……ひどい……」
ノーマはお尻を擦りながら待っていると、しばらくして、エメスは真剣な顔で戻ってきた。
「……師匠?」
「ノーマ、お前は一体なにをやった?」
「なにって、木の枝が突然下がって……そのせいで落ちちゃって……」
「それはどの枝だ?」
「えっ?えっと、確かこの枝だったかな?……あっ、これです!」
「木の枝に偽装していたわけか……」
「隠し扉のスイッチだったんですね。……中にはなにがあったんですか?」
「……この件はわたしが預かる。他言は厳禁だ。お前が話した一件も含めて少し話をしてくる。わたしの部屋の場所はわかるな?そこで待っていろ」
「えっ、はい……わかりました」
森へ帰る道中、空気は少し重かったが、エメスの方から声を掛けてきた。
「ノーマ、お前のお菓子をラミーに渡したんだが……」
「は、はい。……どうでした?」
「泣いていたぞ」
「泣!?なんでですか?」
「足りないってさ」
「えっと、美味しかったみたいでよかったです……」
「問題はここからだ。どうやら陛下に見られてたみたいでな。あの、白いケーキだが……」
「シフォンケーキですね」
「自分の分がないことに落ち込んでいたぞ」
「えっ!?だって、お城の食材でもないし……陛下に出すには……」
「リリアン殿下には出したのにか?」
「それは……リリ様が許容してくれたからで……」
「なんにせよ。次来るときには作ってほしいそうだ」
「……今さらですけど、わたしみたいな田舎娘のお菓子でいいんでしょうか?」
「本人が希望しているなら良いだろう」
「そうなんですかね……」
少し空気が穏やかになり、一息入れて、エメスは話を続ける。
「……あー、その、なんだ……さっきはいきなり怒鳴って悪かったな」
「怒鳴る?……ああ、ブローチのことですね。やっぱり受け取ったらいけなかったんでしょうか?」
「うーん……それを答える前に、そのブローチを今後どうするか聞かせてくれ」
「どうする……ですか……」
ノーマは悩んだが、実のところ結論は既に出ていた。
「大事にしまっておこうと思います」
「……着けないのか?」
「今日だけで二回も失くしそうになりましたし……それに―――」
「それに?」
「……とにかく、分不相応ですから」
「……そうか」
「ブローチをもらってから碌な目に遭っていない」とはさすがに言えなかった。その様子を見て、エメスは安堵の表情を浮かべた。
それからも会話こそするものの、どれも他愛のないものばかりだった。ノーマは隠し扉の件を聞きたかったが、その話題をエメスが意図的に避けていることに気付き、聞くことができなかった。
それからというもの、城内でハーティスを見かけなくなり、代わりの侍女がリリアンの我儘に振り回されたのか疲れた顔をし、リリアンはどことなく寂しげだった。
そんな日々がしばらく続いたある日、カルロスが病に倒れた。
お疲れ様でした。
プレゼントの意味については調べてはいるものの、正しいかは自信がありません。間違っていたら申し訳ないです……




