第52話 厄除け(?) 1
城へと戻る道中、ノーマはふと、カルロスからもらったブローチを思い出し、取り出した。宝石が日の光を反射させ、キラキラと輝いていた。
(綺麗……あのときはつい受け取っちゃったけど、本当にもらってよかったのかな?よく考えたら相当高価な物なんじゃ……でも、お詫びって言ってたし、今更返すわけにもいかないよね……)
(……厄除けって言ってたっけ、わたしみたいなのに渡すなら、もっと、こう……安いアミュレットとかでよかったんじゃ……)
ノーマが思考を巡らせ悶々としているとき、黒い影がノーマに迫る。上空からの素早い奇襲に、ノーマは反応できなかった。
「……あ、あれ? えっ、ええーーーっ!?」
黒い影の正体はカラスだった。眩い宝石の輝きは、カラスの目にも魅了的に映っていた。
「まっ、待って!お願い、返してーーーっ!!」
言葉が通じるかもわからないままノーマは叫ぶ。
元々、人からもらった物を大切にする性格ではある。ボタン村を離れるときに、ブランからもらったハンカチも、穴が開いたり、取れない汚れが出来ても補修しながら未だに使っている。
しかし、今回に至っては少し意味合いが違う。「王族から賜った物を紛失した」という状況は、ノーマの精神衛生上よろしくなかった。
必死になってカラスを追いかけると、人通りの少ない路地を通ることになった。
(人目も少ない……ここなら!)
「ネフラ、なるべく傷つけないようにブローチを取り戻して!」
ネフラは風の精霊術で加速し、カラスの前に立ち塞がる。体格だけで見ればカラスに分があるが、ただのカラスが精霊に敵うはずもない。強風でバランスを崩し、急な突風に混乱したカラスがブローチを嘴から放した。そのまま地面に落下するブローチを風の精霊術で保護し、どこも壊れることなくブローチを回収することに成功した。
「よかった~~~……ネフラ、ありがとう」
ブローチを両手で包み、安堵したのも束の間、少し離れた場所で話し声が聞こえてきた
(……なんだか、聞き覚えのある声…… 宰相様!!?)
その声の主はサミュエルだった。サミュエルは黒いマントに身を包んだ男と何やら話し込んでおり、ノーマは建物の影に身を隠しながら聞き耳を立てる。
「……例の物だ」
「よし、……首尾はどうなっている?」
「いつでもいける。後は、あなた次第だ」
「ふっふっふっ……長かった計画も最終段階。ついに、ついにこのときが……」
「抜かるなよ」
「ふん!貴様こそな……」
(……計画?最終段階って何?でも、どうしよう。聞いちゃいけない会話な気がする。師匠に相談しなきゃ―――)
逸る気持ちがそうさせたのか、思考に気を取られ、ノーマは小石を蹴ってしまった。当然、その音をサミュエルと黒マントの男が聞き逃すはずがない。
「!? 誰だ!!?」
「こんなところに人だと!?」
「……消すか」
黒いマントの男がノーマのいる方向に駆け寄る。
(マズいマズいマズい、どうしよう。えーっと、えーっと……そうだ!)
「……ニャー」
「猫?……いや、怪しい……」
黒マントの男が歩みを進めると、一匹の猫が飛び出し、走り去っていった。
「……本当に猫だったのか。だが、一応確認するか」
黒マントの男がノーマの隠れていた場所を覗き込む。しかし、そこには誰もいなかった。周囲を見回し、何もないことがわかると黒マントの男は軽く舌打ちをした。
「チッ……人騒がせな」
「おい、本当に誰もいないのか?」
「音がした時間を考えると、逃げたなら後ろ姿が見えるはずだ。足音もなかったし、隠れられるような場所もない。……どうやら杞憂だったようだ」
「……ふぅ、薄汚い猫め。驚かせおって……」
「だが、あまり長居はしない方が良さそうだ。では、後ほど……」
「うむ……」
宰相と黒マントの男はその場を立ち去った。
しばらくして―――
「……ぶっはぁっ!! あ、危なかった~。まだドキドキしてる……ありがとうルビィ、戻って来て」
ノーマは建物の屋根から現れた。ルビィを囮にして、風の精霊術で身体を軽くし、足裏で空気を圧縮、足音を立てずに屋根まで一気に跳び、身を隠していた。なお、息を潜めるだけでいいにもかかわらず、ノーマはその間、息まで止めてしまっていた。
「一刻も早く師匠に―――ネフラ? 城の中で話すのは危ない……そっか、誰かに聞かれるのは危ないね。じゃあ、帰りに話そうかな……うん、じゃあ帰る前にお願いしてみるね」
その後は、リリアンと合流して、お茶会に参加する……が―――
「姉様、このプリン。いつもと違うね?」
「はい、材料の質はどうしても落ちてしまうので、別の方向で贅沢にしてみたんです」
「別の方向?」
「卵黄だけで作ってみました。そうすれば安い卵でもしっかり濃厚になるかなって……」
「なるほど……いつもより卵の味が濃いと思っていましたが、それだったのですね」
「ええ……それで、余った卵白でシフォンケーキというものを作ってみました」
「味見したときも思ったけど、すっごく不思議なケーキ!口に入れたら溶けちゃうんだもん」
「白くて綺麗なだけでなく、シュワシュワモチモチでいくらでも食べれてしまいそう……」
「……」
「……姉様、どうかしたの?」
「えっ!? い、いえ……何でもありません」
「本当?なんか、元気がないみたいだけど……もしかして、体調悪い?」
「そんなことはありません。大丈夫ですよ」
ノーマは先ほどのサミュエルの会話が気になり、時折集中できずにいた。何とか取り繕うも、ハーティスには見透かされていた。
「……ノーマ様。何か嫌なことでもありましたか?」
「いえ、その……嫌なこととかでは……」
「……宰相の馬鹿に何か言われた……とか?」
「!? どうして……あ、いや、ち、違います」
「……当たらずとも遠からず、宰相が関係していることは間違いなさそうですね」
「そ、それは……」
「よろしければお聞かせ願えませんか?」
「……申し訳ございません。それは言えません」
「……わたしたちが信用ならないと?」
「違います。違うんです……」
宰相が何か良からぬことを企んでいる。そのことを一人でも多くの人に知ってもらえる方がいいと思う一方で、この話を知ったことで二人に危険が及ぶことを考えるとノーマは話すことができなかった。
「……どう違うんですか?」
「……お願いします。今は、今だけは……何も聞かないでください」
「ふむ……わかりました。ただ、あまり一人で抱え込まない方が良いこともあります。そのときは相談に乗りますよ」
「ありがとうございます……」
この日のお茶会は、少しだけ空気が重かった。
お疲れ様でした。
ちょっとシリアスなシーンだったので入れられませんでしたが、ハーティスの普段の態度を知っていると、相談相手としては微妙ですね……




