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第51話 没落貴族 3


「ふぅ……それで、ノーマちゃんはこの後どうする?」

「わたしは……リ、リリアン殿下のお茶会までまだ時間があるので適当に歩いてみようかと思っています。アーノルド様は訓練ですよね?」

「いや、オレは今日非番だよ」

「えっ……申し訳ございません。せっかくの非番に、わたし、お邪魔でしたよね?」

「大丈夫。女の子の店が夕方からで、暇つぶしでここに来ただけだから」


 へらへら笑いながら話すアーノルドの様子に安堵しながら、ノーマは気になったことを質問する。


「あの……アーノルド様。一つ、よろしいでしょうか?」

「ん?なに?」

「シルトって……その……」

「……ああ、没落貴族ね」

「はい……特に気にしてなかったんですけど、どうしてそうなったのか気になっちゃって……」

「んー……ちょっと込み入った話になるからな~……」

「あっ、いえ、話せないなら結構です」

「そういうわけでもないんだけど……そうだ!ノーマちゃん、城下町に行ったことある?」

「……そういえば、行ったことありません」

「なら、ちょっと出掛けてみない?食事がてら話でも……」

「えっ、でも……わたし、今持ち合わせがあまり……」

「一人で食べるのも寂しいから付き合ってよ。ご馳走するからさ」

「……わかりました」


 思うところはあったが、シルトからは人となりは聞いているためノーマ付いて行くことにした。


 モッコクは農産・畜産が盛んと言うこともあり、飲食店や出店が多く建ち並ぶ。立ち食いの軽食を大量に買って楽しむも良し、腰を据えてこだわりの料理を楽しむも良し。モッコクで育てられた食材で作る料理はいずれも美味で、旅人たちの評判も上々、依頼で近くを通った冒険者たちがわざわざ遠回りして寄ろうとするほどの人気がある。

 ノーマは屋台から立ち上る香しい香りと、その見た目の情報に振り回されていた。


(小麦の良い匂い、美味しそうなパン……あっちではタレと混じり合って焼いたお肉の匂いが……新鮮なお野菜のシャキッとした歯応えがここまで聞こえてきて……あそこのトロトロの卵美味しそう……)

「……行きつけの店で腰を据えて話そうと思ったけど、屋台の物を買い集めた方が良さそうかな?」

「だ、大丈夫です」

「本当?ここの屋台は採れる物でメニューが変わるから、今を逃すとしばらく食べられない物もあるかもしれないけど……」

「……だ、だいじょ、うぶ……です……!」

「ふふ……いいよ。天気もいいし、いろいろ買って食べようか」


 後ろ髪を引かれすぎていたのが顔に出ていたのだろう、アーノルドはノーマを気遣い、屋台を見て回った。さすがに遠慮して頼もうとしていたノーマだったが、アーノルドにはいろいろと見抜かれており、あれよあれよという間に両手いっぱいの料理を抱えることになった。

 運よく木陰のベンチを見つけ、二人で座ることにした。


「申し訳ございません。こんなにたくさん……」

「いーのいーの、野郎に驕るならとにかく、可愛い女の子のためならこれくらい……それより、そんなに買って食べきれる?」

「恥ずかしながら、その……食べれます……」

「へぇ……まぁ、それぐらいの方がご馳走した甲斐があるな」

「それで……その……」

「ああ、そうだね。食べながら話そうか」


 屋台で買った搾りたてのオレンジジュースで喉を潤し、アーノルドは語った。

 元々、テムズ家は男爵の位を持つ騎士の家系だった。シルトの父、ガロ・テムズは領民を愛し、積極的に支援を行うことで領民の信頼も厚く、周りからの評判も高かった。しかし、領地で大飢饉が発生し、領民を救うために私財を投じた結果、借金を抱えて爵位を失うことになってしまった。それを不憫に思った侯爵であるポルタ家が借金の一部を肩代わりし、シルトを引き取ったという。


「そんな経緯が……あの……アーノルド様、侯爵様だったのですね」

「そんな畏まらなくていいよ。オレ次男だから家督継げないし」

「でも……よかった……」

「よかった……ねぇ」

「え……?」

「……シルトに貧しい生活をさせるぐらいならと考えた苦渋の選択だったんだろうけど、裏目に出たんだよ」

「裏目……ですか?」

「不憫に思ってというのは建前だ。ポルタ家は自分より爵位が下であるにもかかわらず一目置かれていたテムズ家が気に入らなかったんだ。だから借金で相手の弱みを握り、シルトを傷つけることでテムズ家を精神的に追い込もうとしたんだよ」

「そんな……ひどい!!」

「オレはそのときすでにモッコクにいたから、たまたま実家に帰ったときに知ったんだ。シルトと初めて会ったとき、剣術の稽古という名目で兄貴に痛めつけられててさ。治療を受けられてないのか身体は傷だらけで、食事も碌にもらえてなかったせいで身体も細くて、すべてを憎んでいるような目をしていたよ」

「シルト……」

「兄貴は親父の教育に染まってるせいで、かなり傲慢でさ。使用人たちも処分を恐れて手出しができなかった……周りに味方がいない状態で傷つけられ続ければ仕方ない反応だったな。むしろ、よく心が折れなかったなと思うよ」

「……」


 シルトの境遇に心を痛め、ノーマ俯き黙り込む。そんな中、アーノルドはニヤリと笑い、大袈裟な動作でおどけてみせた。


「そこで、このアーノルドさんの出番!」

「!?」

「一応次男だから口出しできるし、兄貴はなぜか知らないけどオレを避けるからシルトに稽古をつける名目で守ってたんだ」

「そうなんですね……だから、シルトは……」

「ん?何か言ってたの?」

「い、いえ……その……なんで、アーノルド様はシルトを助けてくれたんですか?」

「いやいや、一方的に叩きのめされている人を見たら普通助けるよ。それに、オレ弟欲しかったからさ、仲良くなりたかったんだ」

「反対されなかったのですか?」

「されたよ。でも、兄貴には文句があるなら一騎討ちで決めようと言ったら黙ったし、親父にも弱い相手を一方的に打ちのめすなんて兄貴の騎士としての格が下がるだけだって言ったら何も言わなくなったよ」

「アーノルド様、お強いんですね」

「どうだろ?ウォルター騎士団長には勝てなかったし、ジャイブ副団長にも引き分けだったからな~」

(それって、結構すごいんじゃ……)

「それでも、やっぱりシルトへの風当たりが強くてさ。それで、いっそのこと弱いシルトを鍛え上げるという名目でここに連れ出すことにしたんだよ」

「そうなんですね」

「苦虫噛み潰したような顔はされたし、支援は一切しない条件だったから、おかげでしばらく女の子の店には行けなくなっちゃったけどね」


 頭を掻きながら笑うアーノルド。しかし、シルトに対する愛情が伝わり、ノーマは嬉しくなった。


「ふふ……」

「……ノーマちゃん?」

「申し訳ございません。アーノルド様が良い人でよかったって思って……」

「惚れちゃった?」

「惚れた……かはわかりませんけど……かっこいいと思いました」

「だろだろ~?もっと言ってもいいよ?」

「はい、かっこいいです!」

「本当に言うんだね……ありがと。さて、話はこれぐらいかな」

「そうですね。ちょうど食べ終わりましたし……」

(……あれーーー?結構量があったはずなのに、いつの間にか全部なくなってる……)

「……?アーノルド様?」

「ああ、いや……ノーマちゃん、この後どうするの?」

「そうですね。お城に戻って、リリアン殿下を待とうと思います」

「そっか……オレはもう少しこの辺りを適当に歩こうかな。城まで送ろうか?」

「平気です。本日はありがとうございました」

「……ノーマちゃん」

「はい?」

「シルトとこれからも仲良くしてやってくれ」

「……はい、アーノルド様もお元気で」


 ノーマはアーノルドに頭を下げて、その場を後にした。


 お疲れ様でした。


 今さらながら、投稿時間を変更した理由について説明します。とはいえ、単純に深夜帯よりも昼頃の方が作品を見ていただけるという情報があったので試したくなったという次第です……ご迷惑をお掛けしました。

 現状、水曜日の昼頃を目途に投稿を続けます。また、変更等がありましたら後書きや活動報告に記載しますので、何卒よろしくお願いします。

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